経済・社会

2023.12.29 09:30

フランスで厳格な新移民法案が採択。2024年は欧州も政治の年になる

右傾化の波に洗われる欧州統合

2024年は米国だけでなく、欧州も政治の年となる。

仏調査会社のイプソスや同国の新聞「ル・モンド」などが11月下旬から12月中旬にかけて1万1000人あまりのフランス人を対象に実施した世論調査によると、2024年6月に予定されている欧州議会選挙ではRNの候補者に投票すると答えた人が全体の28パーセントと最も多かった。

「物価高やそれに伴う生活コストの上昇に加え、移民流入への懸念が強まっている」(欧州情勢に詳しいエコノミスト)ことが背景にはある。

欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス)の調べによれば、2023年1月から11月に欧州連合(EU)へ入った非正規の移民の数は、前年同期比17パーセント増の35万5300人超に達した。すでに2022年を通した非正規移民の数を上回り、2016年以来の高水準に到達している。

特に多いのが、外国人排斥の機運が高まる北アフリカのチュニジアからイタリアの島などを目指す「中央地中海ルート」経由での移民だ。2023年1月から11月の同ルート経由の移民数は15万2211人で、前年同期比61パーセント増。海を渡るのは危険と隣り合わせで、地中海では今年、2500人あまりが行方不明となっているという。

右傾化の波は欧州統合の根幹も揺るがしかねない。1952年に発足した統合の源流である欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の構成国のオランダで11月に行われた総選挙では、反移民、反EUの立場を鮮明にする極右政党の自由党(PVV)が第1党となった。

「移民問題に十分な対応をしなければ、極右政党を利するだけ」(前出の欧州情勢に詳しいエコノミスト)。

これまで移民に比較的寛容だったEUも受け入れ厳格化へとカジを切った。EU理事会議長国のスペインと欧州議会は12月20日、移民制度改革で合意に達した。これには移民の入国規制強化のほか、最初に移民が到着した国の負担を軽減できるよう加盟国が連帯して支援するメカニズム導入なども盛り込まれ、2024年の欧州議会前までの採択を目指す。

「Co-exist」実現への道筋は?

仏調査会社「イプソス」は前出の世論調査結果について、「イスラエルとイスラム組織ハマスの軍事衝突が国民に不安と悲しみの感情を引き起こすとともに、反ユダヤ主義の台頭をもたらしている」などと分析する。

こうした現状は2015年2月にフランスで起きたテロ事件を想起させる。イスラム教の預言者ムハンマドを揶揄するような風刺画を掲載したパリにある仏週刊紙の「シャルリー・エブド」本社やユダヤ系の食品店がイスラム過激思想に染まった複数の男に襲撃され、多くの犠牲者が出た。

「ル・モンド」紙は当時、「フランス人の9・11」との見出しを付けて報道。ユダヤ教の礼拝所のシナゴーグや主要メディアなどでは厳重な警戒態勢が敷かれ、銃を持つ警官らが多数配置された。

事件後に広まったスローガンが「Co-exist(共生)」。「C」にはイスラム教の象徴として知られる三日月、「x」にはユダヤ教のシンボルのダビデの星、「t」にはキリスト教の十字架をそれぞれ配したロゴがデザインされ、街中に掲げられた。ところがその後、ロゴのデザイナーが襲われるという事件が発生した。

イスラエルとハマスの対立は深刻さを増すばかりだ。欧州には不法移民によるテロへの警戒もくすぶる。「Co-exist」実現への道筋は見えない。

連載 : 足で稼ぐ大学教員が読む経済
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文=松崎泰弘

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