「爆買い」は戻るか
果たして爆買いは戻るのか。これは非常に予想が難しいテーマで、「ショッピング意欲は高い、ただしコロナ前とは様相を異とするのでは」と考えている。まず現在、訪日観光をしている消費者層や中国大陸で日本への旅行を希望する消費者に雑談ベースのヒアリングも行っているが、「ショッピングも日本での旅の楽しみの1つ」として上げるケースが多く、「日本で買い物をする」という意欲は変わらず強いと感じている。
ただ上述のように、各々の価値観や嗜好に基づいての消費を行う若者世代が中心であるがゆえに、その買い物の対象が個人によってかなり細分化されてきていると感じる。
例えば小紅書の「ショッピング共有」投稿を見ていても、もちろんプレステージコスメを購入している消費者も依然として存在しているが、同時に「日本のお菓子」を購入している旅行者、人気のキャラクターグッズ(おもちゃや文具など)を購入している消費者、アパレルファッションを購入している消費者など、バリエーションが多い。
つまり個人の趣味嗜好が細分化され、それに伴って訪日時の買い物も多様化が進んでいるのではないかと考えられる。
ショッピングスポットも従来の百貨店、アウトレットなどに加え、ドラッグストア、各種専門店、さらには古着店などと多岐にわたっていることが、小紅書から見て取れる。
よって、現状の訪日客が主力であり続ければ、かつての様な「とにかく人気の商品を大量に買う」タイプの爆買いは一旦落ち着く。むしろ「日本でしか買えない、自分の好きなもの」を必要に応じて購入する、という爆買いへと姿を変えてくるだろう。
ステレオタイプの認識、改めを
こうした市場環境にあってインバウンドですべきこととして、まずは「中国人は~」というステレオタイプの認識を改めることである。自社の商品が、中国のどういった層の、どういったニーズを持った層に刺さるのかを明確に理解し、その思考に合った方式でメッセージを発信していく事である。同時に、自社商品がどのような研究によって開発された機能を有しているかということについても、しっかりと伝えることが必要だ。その商品を使って、普段抱いている悩みがどのように、なぜ解決できるのか、というエビデンスである。
さらに言えば中国消費者も「よいもの」をロジックで理解しているだけでなく、体験し、判別している。処理水問題が巻き起こっている8月、9月中、中国の消費者にヒアリングをしたところ「悔しいが、日本ブランドの品がいいのは否定できない」とつぶやいた人は少なくない。いわば「日本のモノづくりのスゴさ」を本当の意味で理解してくれる消費者が育っているのである。
処理水問題以降、日中関係は相変わらず微妙な状況を保っているが、中国の航空会社は2023年12月から日本便を増便する計画が見られる。また報道やSNSで処理水について日本を批判する声はゼロではないが、かなり下火だ。
こうした点から、春節から春のお花見シーズンにおいて前述のような若者世代の個人旅行を中心に、数が増加していくのではないか。
そして順調にいけば春過ぎには団体旅行も回復傾向に乗り、夏休みシーズンに地方の中間層などによる観光が伸びてくる、というシナリオが考えられる。
その時のためにもいまから、「新たな爆買い」に備えた中国消費者の解像度を上げておきたいところである。