宇宙分野から軍事分野へのピボット
南カリフォルニア大学を卒業したロリエンティは、2011年にスペースXでロケットエンジンの開発に関わり、数年後にはアマゾン創業者ジェフ・ベゾスが設立したブルー・オリジンに移籍して、ニュー・シェパード・ロケットのBE-3エンジンの開発に関わった。エンジンはロケットの中で最も複雑で高価な部品であり、コストの半分以上を占めている。宇宙の商業化が進む中、ロリエンティは、エンジンに特化したスタートアップの需要が伸びるだろうと考えた。「アーサ・メジャーは、ロケット打ち上げ分野のインテルになりたいという思いから生まれたようなものです」と彼はフォーブスに語った。
ロリエンティは2015年に、スペースX在籍時に得ていた株をすべて売り払い、「家を買って家族を作るのではなく、3Dプリンターを買って会社を立ち上げ、母を泣かせた」と冗談めかして語った。
最初の製品はHadley(ハドレー)と呼ばれる小型エンジンで、2018年に試験発射された。その開発は、人工衛星の打ち上げ需要の高まりに乗じて小型ロケットを開発するスタートアップが急増した時期と重なった。当時は、スペースXやアマゾン、ワンウェブなどの企業によって、数百から数千の小型衛星のコンステレーションが計画されていた。
しかし、ロケットの製造元に、エンジンを売り込むのは困難な作業だった。「ロケット会社はエンジンの製造に誇りを持っているので、その中心的な役割を手放すよう説得するのは難しい」と、調査会社キルティ・スペース社の担当者は言う。
また、これらの新興のロケット企業は、大手よりも低価格の打ち上げサービスを提供できるという間違った賭けに出ていた。小型ロケットの開発は、中型や大型のロケットに比べて格段に安いというわけではなかった。その結果、今や衛星コンステレーションの打ち上げは、主にスペースXのファルコン9などの中・大型ロケットにほぼ独占されている。
アーサ・メジャーのエンジンは結局、この市場で顧客を獲得できなかった。そして、ロリエンティは軍事分野に軸足を移した。
同社の液体燃料エンジンが成功する可能性のある分野のひとつが極超音速技術だ。米国はロシアや中国に追いつこうと、機動性のある高速ミサイルの開発に躍起になっている。ポール・アレンが2010年に設立し、現在はサーベラス・キャピタルが所有するStratolaunch(ストラトローンチ)社は、極超音速ミサイルの試作品の動力源として、アーサ・メジャーのハドレーエンジンを使用している。
さらに、米空軍研究所は5月に、敵の極超音速兵器をシミュレートする標的練習用ミサイルに使用するのに適したドレーパーと呼ばれる推力4000ポンドの液体燃料エンジンを開発する契約をアーサ・メジャーと結んだ。この契約は「8桁台」の金額(数十億円)を提供するもので、今後は20万ポンドの推力を持つ再利用可能エンジンの開発にも資金が提供されるという。
ロシアとウクライナの戦争に終わりが見えない今、アーサ・メジャーには、EUや韓国、日本、オーストラリアなどの同盟国の宇宙プログラムをサポートするチャンスがあると、ロリエンティは考えている。
「ロケットエンジンの急増は今後も続いていきます。この分野の覇権を握るのは、米国と中国のどちらかになるはずです」と彼は話した。
(forbes.com 原文)