働き方

2023.12.19 14:00

なぜ、リスキリングは経営課題なのか

「学び合う私たち」という意識醸成

もうひとつ、日本人を学びから遠ざけている要因は、学び合えるつながりが少ないことです。これまでの学校での学びを振り返ると、他者とのかかわりのなかで学び合って培われてきたものが多いのではないでしょうか。このつながりを社会関係資本とも言いますが、日本人の社会関係資本はかなり貧弱です。他者への信頼感はOECDのデータでは81カ国中70位台。また、欧米の地縁や宗教縁、中国ほどの血縁ももたないので、学び合いをもたらす人とのつながりを広げる力が非常に弱い。唯一の頼みの綱だった「社縁」も崩壊しつつあります。リモートワークの普及によって企業への所属意識や社員どうしのつながりは希薄になりました。また、企業が日本型雇用から移行し雇用の流動性を高める動きも見られ、「中動態のキャリア」に基づく両者の蜜月関係も終わりつつあります。
 
そんななか、従業員の社会関係資本を補うものとして注目されているのが、コーポレートユニバーシティです。現在は既存の研修をパッケージ化しただけのものも多いですが、「学び合う私たち」という意識を醸成できる点で優れています。集団で学ぶことで発生する同調圧力は日本人を動かすには効果的です。また、社内SNSや掲示板といった「私たち」だけが使えるプラットフォームを整備すること、講習を受けている人や人数を公開する人的レコメンドもおすすめです。重要なのは「個人」を単位にした内発的動機づけではなく、「他者」からの動機づけを発生させる仕組み化なのです。
 
リスキリングを進めたい企業が最初に取り組むべきなのは、学び合う仲間づくりの仕組みを整えること。それをせずに学びのコンテンツを揃えるだけのリスキリング施策は失敗に終わります。


小林祐児◎パーソル総合研究所上席主任研究員。NHK放送文化研究所、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年入社。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著書に『リスキリングは 経営課題 日本企業の「学びとキャリア」考』(光文社)

構成=松本幸四郎

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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