「システム思考はソーシャル・イントラプレナーの仕事をネクスト・レベルに引き上げるためのヒントを与えてくれるかもしれない」
システム思考とは課題解決手法のひとつだ。課題の全体像を「システム」としてとらえ、原因を多角的に探りながら解決手法を見いだす。アットルが言うシステミック・イントラプレナーとは、企業や組織のコアにあるパーパスや戦略、文化などを変革し、公正で持続可能な経済社会の実現に貢献する人を指す。
ソーシャル・イントラプレナーが生み出す製品やサービスは、それ単体では社会的価値があっても、イントラプレナーが属する企業や組織全体のビジネス戦略にまで影響を及ぼすことは少ない。アットルは上述の記事のなかで、「組織の古い文化や行動パターンが変わらないまま、個別の製品やサービスがソーシャル・イントラプレナーの成果として生み出されるだけでいいのか?」と一石を投じている。
「組織に変革を起こすことが必要なのは明らかだ。システミック・イントラプレナーシップは、企業が手がけるビジネス全体の目的や考え方を変えようと試みるべきだと問いかける」
忍耐強く、つながり支え合う
では、企業や組織のなかでシステミック・イントラプレナーシップを発揮する人を増やすには、どうすればいいのか。アットルは「まず、システム思考とは何かを社内で理解することから始まる」と指摘する。その際に役立つのが「氷山モデル」だ。氷山モデルとは、問題を「出来事」「パターン」「構造」「メンタルモデル」の4階層でとらえる思考のフレームワークだ。表層にある行動や戦略が、その下にある組織のメンタルモデルにまで広がっていることを説明するのに役立つ。
ふたつ目のポイントが「忍耐強さ」だ。「変化をもたらすには長い時間が必要であり、その影響力はより拡散的なものだ。また、システムにかかわる無形の仕事は認識するのがかなり難しい。そのため、システミック・イントラプレナーのKPIはソーシャル・イントラプレナーとは異なるものでなくてはならない。彼らのインセンティブを正しく調整することで、よりプレッシャーの少ない状態をつくり出すことができる」
最後のポイントとして、アットルは「フォーラムの開催やチャットツールの活用などを通じて従業員がネットワークを構築できる場所をつくること」を挙げる。「人間関係を構築することで、彼らは自分たちの取り組みを肯定的にとらえられるようになる。イントラプレナーシップは、人々の信頼から大きな力を得ることができる。そして、イントラプレナーが孤立した存在ではなくなったとき、多くの若手社員や若者たちが、自分のキャリアが非常に目的意識の高いものだということに気づくだろう。組織における起業家的な問題解決の取り組みは、より多くの変化をもたらすのだ」
ベン・アットル◎デジタル・カタパルト イノベーション・マネジャー。ウォーリック大学を卒業後、アドバンス・アクセラレーター共同創業者兼ディレクターなどを経て2021年から現職。世界経済フォーラム グローバルシェイパー。