説明できない賃金格差
賃金格差の理由がすべて解明されているわけではありません。そのため、職階、勤続年数や職種、労働時間などの影響による『説明できる賃金格差』と、これらの条件を揃えたとしても残る『説明できない賃金格差』が存在します。1021社を対象とした、マーサーの「日本における報酬に関する市場調査レポート2022(Total Remuneration Survey 2022)」によると、『説明できない賃金格差』による男女の賃金差は6%あることがわかりました。フリーマーケットアプリ大手メルカリの発表によると、同社の男女間における平均賃金は37.5%の格差。このうち、同じ職務・等級の正社員賃金では、女性が男性に比べて約7%低かったことが明らかになりました。
同社9割近くを占める中途採用者に対し、前職の賃金水準を反映した条件を提示する慣行が定着していたことが、こうした『説明できない賃金格差』を招いたとしています。同社は、一部の女性の基本給を引き上げるなどして、この格差を8月までに7%から2.5%まで縮小。採用プロセスの見直しも進めています。
『説明できない賃金格差』は、スキルの調査データにも見られます。つまり、男女が持つスキルの違いは男女間の賃金格差の要因にはなく、そこには、「この仕事は女性に向かない」「この仕事は男性に向いている」などといった「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」の影響も見られるのです。こうした偏見の他に、男女間の交渉力の差やデータに現れない説明できない労働者の特性など、格差を生む原因は複雑です。
企業が、職務内容や責任範囲を明確化し、性別に依存することなく公正で明確な評価基準を設けることは、こうした格差を解消するための第一歩となるでしょう。
賃金格差への取り組みは、意識改革から
ゴールディン氏は、日本の女性は短時間労働が多く、男性のように終身雇用されるような仕事についていないとし、「女性を労働市場に参加させるだけでは解決にならない」と指摘しています。また、賃金格差の改善に向け、昨年政府は、従業員数300人超の企業に、男女の賃金の差異の開示を義務づけました。対象となる企業は、正社員、非正規社員を問わず、全従業員の賃金開示が求められます。
こうした取り組みを契機に、『女性が働く』ことに対する社会全体の意識改革、また『説明できない賃金格差』に対処することは、日本の経済成長の追い風となる道のりを築く事にもなるでしょう。
(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)
連載:世界が直面する課題の解決方法
過去記事はこちら>>