「科学」と「アート」を組み合わせて、営業改革を成功させる
Aさんが営業改革に成功した一番の理由。それは、やはり営業マネジメントを「科学」と捉え、問題の根本原因を特定できたことです。「訪問回数が原因では?」と仮説を立て、本当の原因を突き止めるまで「なぜ」を何度も繰り返し、分析や観察を繰り返す。その結果、真の原因は、最初に考えた訪問回数ではなく、ヒアリングや提案営業のスキルの差、学ぶ意識の差にあることが見えてきました。今回は、中小企業への訪問が多い営業だったため、訪問回数を切り口にしましたが、何が切り口になるのかは営業のやり方によって異なります。例えば、大企業のキーアカウントが顧客の大部分を占める場合は、訪問回数は良い指標にならず、売上規模やクロスセル比率が良い切り口になったりします。
このお話は、私が複数の企業で営業改革をした経験を組み合わせたものですが、実際にこのような科学的なアプローチにより、営業組織のかなりの課題を洗い出すことが可能です。もちろん、課題発見は営業改革の序章に過ぎませんが、最も大切なプロセスです。その後に、組織再編やコーチングを通じて「人を動かす」「組織を動かす」部分は「アート」の要素も多く、苦労も多いでしょう。しかし最初の診断を間違えると、無意味な改革になってしまいます。お医者さんと一緒です。10時間にも及ぶ難関な脳外科手術に成功しても、最初の診断で真の病巣を当てられていなければ、意味がなくなってしまいますから。
経営者やトップマネジメントの皆さんも、「営業マネジメント」という「科学」を取り込んでみてはいかがでしょうか。
倉本由香利◎マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー。東京大学理学部卒、同大学物理学修士、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院経営学修士(MBA)。製造業を中心に、数々の営業改革、営業デジタル改革、売上成長改革、新規顧客開拓、ソリューション営業改革等を支援。マッキンゼーのアジア太平洋地域、および日本における成長・営業・マーケティンググループのリーダー。二児の母で、マッキンゼーにおける女性活躍推進プログラムのリーダーの一人。