「なぜ」を5回繰り返すことの重要性
ここで最下位グループを呼び出して「もっと訪問しろ!」と言っても解決にはなりません。トヨタの大野耐一氏の有名な言葉「なぜを5回繰り返せ」がここで必要になるのです。本当の要因を見つけ出すのに、なぜを問い続けるのかは重要なこと。Aさん「最下位グループの訪問回数が少ないのは、何か理由があるのでは?」
もう少しデータを分析すると、最上位グループは30代から40代の中堅の営業パーソンが多く、また付き合いの長い優良顧客が多いことが分かりました。一方、最下位グループは20代の若手がほとんど。顧客も新規が多い。
Aさん「勝率や売上規模の違いは、経験の差や顧客の差で説明できそうだ。でも、訪問回数は? やっぱりサボってるんじゃないのか?」
データ分析ではこれ以上わからないと判断したAさん。最上位グループと最下位グループから、それぞれ何名かを観察するとともに、同行訪問をお願いしてみました。
営業同行をすると、最上位グループの勝率や売上規模が大きい理由が、優良顧客だからという理由だけではないことが見えてきました。彼らは本当に先方の話をよく聞きます。そして、必ず次回までの宿題をもらい、次の提案につなげています。複数の商材を提案し、クロスセルにも成功しています。
Aさん「最上位グループの1回あたり売上が多いのは、複数の商品をクロスセルできていることにあるのか!」
また、新規顧客の訪問でも、事前に良く調査し、商材の仮説を作りこんでいます。事前調査には、なんと最下位グループの若手を活用していました。
Aさん「売れる商材の仮説を作りこんで行くから、新規でも勝率が高いのだな」
一方、訪問回数が少ない最下位グループ。彼らは先輩からデータ分析や資料作成を依頼されており、訪問に時間を使えないために訪問数が少ないことが分かりました。サボっているわけではなかったのです。
だんだん各グループの実情が分かってきたところで、再びデータを見ると、入社3年目の若手でも二番手のグループに属するほど高い営業成績の人もいます。
Aさん「同じ年次でも勝率に違いがあるのは何故だろう?」
さらに観察すると、最下位グループの訪問の半分は先輩への同行で、自身の売上にカウントされない。これがデータ上、勝率が低く見える理由のようです。データ分析や同行訪問は学びになるので、新人のあいだは良いでしょう。しかし入社5、6年目で最下位グループにいる営業員もいました。
Aさん「3年目で稼いでる営業もいるのに、5年も経って、さすがに先輩にこき使われすぎでは…」
勝率が低く、売上規模が小さい別の理由も見えてきました。彼らはお客様が欲しいと言うものだけ、少ない量を売る。また、お客様のニーズをヒアリングして提案、が全くできていません。
Aさん「出来る先輩にこき使われてデータ分析や同行もしているのに、そこから売れるやり方を全く学べていないんだなぁ」
こうして、Aさんは「なぜ」を繰り返し、観察とデータ分析を往来し、解くべき真の課題を見つけていきます。その後は、苦心しながら、営業チーム再編と効果的なクロスセルと提案営業、コーチングの仕組みを作り、営業改革を進めて、大幅な業績改善に成功するのですが、それはまた別のお話です──。