教育

2023.11.07 13:30

創発のマネジメント

先日、テレビの特集番組で、ある画期的な取り組みをする高等専門学校の現場が紹介されていた。この高専は、様々な専門技能だけでなく、社会を変える起業家精神を併せ持った人材を育てるという教育方針を掲げた学校であるが、筆者も、その先進的な活動に注目している。

ただ、この番組で紹介されたのは、「学生にすべてを自由にやらせる」という学校のユニークな方針の一方で、現実には、学生たちが次第に互いに干渉しなくなり、互いに無関心になってしまうという問題であった。そして、この問題に気づいた教師たちが、この状況を変えようとして、学生たちの活動に関わろうとすると、今度は、学生たちから「介入しないで」と反発を受けるという問題であった。

この高専は、従来の学校が陥りがちであった「校則や規則で学生を縛る」という教育の在り方を変えるため、逆に、「学生にすべてを自由にやらせる」という教育方針を導入したわけであるが、この「自由にやらせる」ということが、それほど簡単ではないという現実に直面したのである。

実は、この「管理か、自由か」という問題は、決して「教育の現場」だけの問題ではなく、実社会の「経営の現場」においても、経営者やマネジメントに携わる人間が、しばしば直面する問題である。

そのことを象徴するのが、1990年代後半に注目された「創発のマネジメント」である。

これは、当時の最先端科学、「複雑系」(Complex System)の研究において注目された現象、外部から管理や制御をしなくとも、自然に新たな秩序や構造が生まれてくる「創発」(Emergence)という現象を、経営の現場においても生み出そうとする革新的なマネジメント手法のことである。

実際、当時は、この「創発のマネジメント」という言葉が一種の流行となり、多くの企業が、「社員を自由に活動させることによって、新たなアイデアや創造的なチームが生まれてくる」ことを期待し、この「創発のマネジメント」を試みたが、残念ながら、その多くが失敗するという結果となった。

実は、その失敗の理由は、明確である。

それは、「創発のマネジメント」を掲げた企業の多くが、ただ「社員を自由に活動させれば、新たなアイデアや創造的なチームが生まれてくる」と安易に考えたことにある。そして、その安易な発想がもたらしたものは、多くの場合、「カオス」(混沌)と呼ぶべき、組織の混乱であった。
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文=田坂広志

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田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

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