経営・戦略

2023.11.09 09:00

山本山当主が海苔弁食べつつ明かした「酷暑下の海苔」と小規模同族経営のリアル

山本山10代当主山本嘉兵衛氏

山本山10代当主山本嘉兵衛氏

「上から読んでも山本山……」のキャッチフレーズを目に、耳にしたことのない日本人はおそらくいないだろう。ご存じお茶と海苔の老舗メーカー山本山は、今年、実に創業333年を迎えた。

日本最古の煎茶商としてスタートした同社だが、現在は「ヤマモトヤマ USA」「ヤマモトヤマ ブラジル」など海外現地法人を設立、ハーブティ事業も推進中だ。なにより驚くべきは、米国への売上げが国内売上げの3倍という国際的な企業でもある。

山本山本社にて、この8月に襲名したばかりの10代当主山本嘉兵衛氏に、博報堂DYメディアパートナーズ アドバイザーで渋谷区CFO(Chief Food Officer)の川井潤氏が、同社の最高級海苔を使用した「にほんばし海苔弁当」を食べながら話を聞いた。──異常気象下の海苔養殖は? 意外にも小規模な同社の経営文化とは?

なお川井氏は、かつて一世を風靡したフジテレビの超人気グルメ番組「料理の鉄人」企画ブレーンも務めたほか、食べログフォロワー数日本一で知られる名物フーディーである。

関連記事> 米国海苔売上げ、国内比3倍。山本山当主に聞いた「カリフォルニア巻き」誕生顛末


猛暑は海苔にとっても厳しい

川井潤氏(以下、川井):海苔は「磯焼け(注:沿岸海域の「藻場」で、海藻が著しく減少するなどの現象)」の問題などがありますね。

山本嘉兵衛社長(以下、山本):実は、九州海域で海苔を作り続けてきて72年間、こんなに不作になったことがないという危機が去年あったんです。気候変動が原因です。弊社が販売している海苔も九州(有明)で全体の75パーセントぐらいの生産をしているので、もちろん大打撃でした。

海苔は、海面でももっとも日が当たるところで海苔を浮遊させて獲ります。だから日差しが強いと海水温が上がる。あるいは海水温自体は低くても、海水面の温度が高くなる。去年起きたのは、猛暑で海水表面の温度が高くなって菌が異常繁殖し、海苔が獲れないという状態でした。

今年も、現時点ですでに海水温が3度高い。

海苔養殖は毎年、海水が23℃程度になる10月中旬ごろに採苗し、その後11月の半ばぐらいに海水温が下がってきたところで「クレモナ網」といわれる網を入れ、そこから2週間ぐらいで収穫する。ところが、11月の10日過ぎに海水温が下がってくれないと、去年のように不作になってしまいます。

「スケジュール通りにやって不作」は人災

問題なのは、海水温が高くても、あらかじめ決められたスケジュール通りに網を入れてしまう、ということが起きていることです。つまり、天候に合わせた収穫がかならずしもできていない。

水温が低くなってから網を入れれば獲れるかもしれないので、まさにこれは「人災」といえます。知恵も知識もあるのだから、網を入れるのを遅くすればいいのに、漁連があらかじめ決めた藻場や期日をなかなか変えられない。

これには、変化を好まない日本人の文化生活習慣、ルーティンを重んじる性質が影響していると思います。

雨が降ったから、天候がまだ暖かいから今年は1週間遅らせましょうと、誰かがリーダーシップを取れればよいのですが、「誰が責任を取るんだ」と言われてしまう、あるいは言われそうで逡巡する。リーダー不在で、「大勢の意見に耳を傾けて合議する」という日本的な文化が海苔をだめにしかねない、ということもいえるかもしれませんね。

川井:僕もびっくりしたのが、とあるニンジン畑にお邪魔した際、明日からの畑のスケジュールは決まっていて、別の野菜のタネ付けが始まるから、ここに育っているニンジンは好きなだけ持って行ってほしい。残ったニンジンはすべて肥料として畑に鋤き込むから、と言われて……。え? こんなに立派にニンジンを育てた努力はどこへ消えるのだろう、臨機応変になんとか、もっと収穫、出荷に回せないのだろうか、と思ったことがあります。
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構成・文=石井節子 写真=曽川拓哉

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