声優を雇わずAI音声を使用 新作ゲーム『THE FINALS』が物議

安井克至

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現在、オープンβテストを実施中の1人称シューティング(FPS)ゲーム『THE FINALS』は、縦方向のスペースをユニークに活用するアリーナや、さまざまなものが破壊可能な環境が特徴的で、筆者としてはとても楽しめている。少なくともサーバーの動作に問題がないときは楽しい。

ところが、先日このゲームについて記事を書いたところ、複数の読者から「でも、人工知能(AI)の件については知っているか?」という不穏なコメントが寄せられた。

とはいっても、ここでいうAIとは、ゲーム内の敵の挙動をつかさどるAIではなく、生成(ジェネレーティブ)AIのことだ。生成AIは今、多くの産業を変革したり、破壊したりしており、その影響はゲームにも及んでいる。なんと、『THE FINALS』開発元のEmbark Studios(エンバーク・スタジオ)は本作で、キャラクターの声のほとんどに、生身の声優ではなくAIを起用したとのことだ。開発チームはそれを隠すつもりもなく、あるポッドキャストでAI使用について大っぴらに語っている。

開発チームは、AIによる声の生成技術は「クオリティの面で十分に進歩している」と主張。ゲームの追加コンテンツに必要なセリフの録音には、従来だったら数カ月かかっていたが、AIではこれを数時間に短縮できると説明した(そしてもちろん、声優に報酬を支払わなくて済むというメリットもある)。もしAIの声にバグや奇妙な部分があったとしても、それはこのゲームで描かれる奇妙なゲーム番組の世界にぴったりなのだという。

だが、そうしてAIで生成された声のクオリティは……ひどい。AIだということをいったん知ると、おかしな部分が耳から離れない。ゲーム内のアナウンサーの声は、抑揚が不自然で、息継ぎもところどころおかしい。実際のゲームプレイのおもしろさと比べると、見劣りする質だ。「シャウトキャスティング」と呼ばれるeスポーツ実況付きのゲーム番組でプレイヤー同士が競い合うというアイデアは良かったのに、そのための声優たった2人でさえも雇えなかったのか? 『Baldur’s Gate 3』のようにセリフが3000ページ分あるわけでもない。これは単なる手抜きであり、ゲームに弊害を生む。

ただ、その弊害とは実際にどれほどのものになるのだろう?

AI生成コンテンツの問題は、その「可もなく不可もない」クオリティが一部でけなされる一方で、一般人の大多数はそれがAIだとは気づかないことだ。それに「AIを使っているゲームなんか遊ばない」という人はあまり多くない。これは、決して良いことではない。こうした領域でのAI使用が当たり前になることにつながってしまう。それでも、AI使用によりゲームが強いられる犠牲は、あったとしても少ないように感じられる。

ゲーム声優たちは、自分の声が一般の人々や会社により「Respeecher」などのアプリに読み込ませられ、実際に収録したことのないセリフを言わされていることに、激しく反発している。しかし、最初から声優の代わりにAIを使うことは、多くの点でより悪い。生成AIを使用したゲームをプレイヤーが一斉にボイコットでもしない限り、こうした事態を防ぐことは難しい。ボイコットが起きる可能性はなくはないが、このようなケースでは変化にはつながらないだろう。

この問題がなければ、『THE FINALS』はすばらしいゲームだ。Embarkが一般からのフィードバックを受け止め、生身の俳優による肉声を収録してくれることを願う。

forbes.com 原文

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