デジタル世界の肝はアナログな人間関係
データサイエンティストのような集団でありながら、その肝とは人間心理である。コンテナ事業は集荷を担う営業部門から採算管理部門、船舶を管理する部門までかかわる部署が多岐にわたる。さらにシンガポールオフィスだけでも19カ国から社員が集まっている。オフィスはガラス張りで部署間の仕切りを設けず、物理的に壁をなくした。心理的にも距離が縮まるように、定期的に社内イベントを開き、シンガポール本社にある社員食堂「オーシャン・カフェ」では、夕方5時半以降になると無料でビールが飲めるようにした。「こうした場所で肩の力を抜いて語り合い部署間の壁をなくしていくことで、さまざまな知恵が集まり、新たな視点や発見へとつながっていくのです」と岩井は強調する。データを融通しあえる連携には、人間関係をオープンにした企業文化こそが重要なのだ。
「熊本の研究所の人たちもパソコンを囲んで『こうしたほうがいいんじゃない、ああしたほうがいいんじゃない』って話していて。見ていて非常にうれしく思いますね」と岩井は話す。研究所の社員は専門家ばかりではなく、もとは英語の先生やスポーツインストラクターなどバックグラウンドはさまざま。コミュニケーションを図ることができる人たちにしたことで、世界トップの利益率という金字塔を立てたのである。
「仲間と一枚岩になっていい仕事をしようという思いが『ONE』という名前に込めてあります」と岩井は振り返る。3社がひとつになって運営を本格化させた直後、コロナ禍で物流の混乱に直面。社員がひとつになって危機を乗り越えることで、企業文化が定着していった。
東京オフィスのリフレッシュルームには、ハートの風船やanniversaryのローマ字の風船が壁一面に飾られ、にぎやかな雰囲気をつくっていた。岩井は「時にイベントやパーティを交え、部署を越えた交流の場を大切にすることで、自然と相手を思いやり、互いにリスペクトが生まれてチームで戦うことができるのです」と言う。データが勝負の世界では、意外にも「他人を思いやる」という人間らしさが勝因となっていたのだ。
いわい・やすき◎1967年生まれ。東京大学卒業。ミシガン大学大学院修士課程修了。1991年、日本郵船に入社。2016年にONE設立に向けた統合プロジクト(IZANAGI)を立ち上げ、2017年ONE設立と同時にマネージング・ダイレクター就任。