海に囲まれた日本において、物流の要となる海運業界。担い手の高齢化が進むなか、人手不足解消に向け注目されるのが無人運航技術だ。
海運業界は業務が長期間にわたることもあり、人員確保は常に困難だ。技術の力で人手不足を解消し、安全性と効率性を向上させたい──。日本財団が課題解決に向けて着手したのが無人運航技術だった。船上で働く人員を減らし、地上から船を管制する仕事を増やすことで労働環境改善が図れる。経験や勘に頼りがちな気象・海象等の知見もデータ化すれば、海難事故の原因の7〜8割を占めるヒューマンエラー防止にもつながる。
こうして立ち上がった「無人運航船プロジェクトMEGURI2040」には、造船や海運、気象やIT等にかかわる企業・機関51社が集まった。目標は「日本でイノベーションを起こし、世界の海運業界をリードする強みをつくり出すこと」と日本財団常務理事の海野光行は話す。
無人運航船開発には、センサー技術や安定した通信環境、サイバーセキュリティや気象・海底地形データに加え、海運に関する国際ルールなど多様な分野のノウハウが必要だ。2021年度末の実証実験成功も、多くの企業の努力が重なった結果だ。参画するウェザーニューズは「数カ月前から海象・気象予報とにらみ合い最適な航路計画を作成した」(同社の福川真吾)。通信スタートアップのSpace Compassは「衛星と地上の通信網をスムーズに切り替える技術を実現できた」(同社の古川操)。日本海洋科学は全体統括に加え「手戻りを起こさないよう、自社のシミュレーション技術やリスクアセスメント手法を活用した」(同社の桑原悟)。
今後はさらなる実証実験を経て、25年に無人運航船実用化、40年までに内航船の半分の無人運航化を目指す。それにはルール作りと社会的理解の醸成が必要となる。無人運航船に関する国際規則はまだないが、海運分野ではこれまで欧州勢が国際ルール制定のかじを取ってきた。今度は日本がそれを主導できるよう、実験で得た知見を積極的に政府に共有している。「無人運航船が社会実装されれば、船も港湾も働き方もかたちを変えるだろう」と海野は想像する。船員の働き方が変わり、地上勤務する「船員」も生まれて若い世代も増えるかもしれない。次世代に向けた航海はまだ始まったばかりだ。
福川真吾◎ウェザーニューズ海事気象事業部運営統括部長、気象予報士。現在海事全般のサービス運営を統括。
海野光行◎日本財団常務理事。2011年より海洋部門を統括、「次世代に海を引き継ぐ」をテーマに事業を展開。
桑原 悟◎日本海洋科学執行役員運航技術グループグループ長。日本郵船から出向中。国内外の自動運航船議論に参加。
古川 操◎Space Compass宇宙DC事業部事業開発部部長。スカパーJSATで同社初の海上衛星通信サービスを立上げ。