アジア

2023.10.16 11:00

中国「一帯一路」に広がる不協和音 イタリア離脱が追い打ちに

こうした事態は一帯一路構想の全体で起こっている。パキスタンは一帯一路の主要な参加国だが、債務の返済が滞り、国際通貨基金(IMF)の支援を仰がざるを得ないありさまだ。アフリカ諸国への融資はとくに危ういようである。世界銀行のエコノミストの推定では、一帯一路関連の融資は現在、全体の約6割が財政難の国々向けになっているという。

中国政府は長い間、こうした融資問題を認めてこなかった。中国の銀行側はかなり前から、一帯一路関連の事業の財政的・経済的な実行可能性をめぐって政府側に警告していた。なかには、融資を決めたのは銀行側ではなく政府側だという点を明確にするために、「政策性融資」とすることを求めた場合もあった。それほど懸念が強かったということだ。

だが、中国政府は銀行側に、不良債権や融資の焦げ付きについてはいっさい口にしないよう圧力をかけた。銀行側は、融資の満期を延長して融資先を延命させるよう促された。銀行業界で「extend and pretend(先延ばしして見て見ぬふり)」と揶揄されるものだ。

中国政府は、G20やパリクラブ(主要債権国会議)を通じて不良債権を再編する西側の取り組みに協力することも拒んだ。中国指導部は、一帯一路の融資に問題があると認めるのは体面上避けたかったのに違いない。それでいて、もし融資の失敗が避けられなくなった場合、協力を拒否しておけば中国への返済が優先されるという算段もあったのだろう。

中国の国有銀行が中国恒大集団(エバーグランデ)や碧桂園(カントリーガーデン)といった中国不動産開発会社の巨額の債務不履行(デフォルト)にも直面するなか、中国政府は、一帯一路は相手国だけでなく中国にとっても持続不可能なものなのかもしれないと気づくようになった。かつて中国経済が飛躍的な成長を遂げていた時代には、中国政府は自らの資金で債務不履行をカバーできたかもしれない。だが、現在はそうではない。

そのため、中国政府は債務再編にかなり前向きになっている。チャドやエチオピア、ザンビアとの間ではすでに交渉を始めている。米シンクタンクのスティムソン・センターによれば、中国当局はパリクラブなどの国際的なグループと共同で、一帯一路関連かどうかは問わず、こうした公的債務に対処する「共通の枠組み」の整備にも参加している。習の口ぶりも明らかに変化している。習は一帯一路に関して「複雑さが増している」と述べ、協力だけでなくリスク管理の強化も必要だと強調している。以前とは相当なトーンダウンだ。

予想されるイタリアの離脱は、現在の参加国のなかでは目立つ経済だけに、一帯一路の評判をさらに落とすことになるだろう。だが、それだけでなく、この構想をめぐる中国や相手国の苦境も浮き彫りになるはずだ。一帯一路は中国でもほかの国でも、もはや世紀のプロジェクトなどとはみなされていない。この構想は、政治や外交上の必要からしばらくは存続するだろうが、縮小していくことは確実視される。習はともかく、中国の銀行や財政省はさぞ喜んでいるに違いない。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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