中国が振りかざした「核汚染水キャンペーン」の影響は、中国がもくろんだ国外よりも国内で大きな反響を呼び、中国から日本に大量の迷惑電話がかかる事態を招いた。中国が公明党の山口那津男代表や自民党の二階俊博元幹事長の訪中を受け入れていないのも、抗議の意思を示すというよりは、中国共産党や国内世論が硬化しすぎたためだとみられる。
中国の「国慶節」に伴う大型連休が9月29日から始まった。中国から日本に向かう航空便も満席かそれに近い状態だという。大勢の中国人客が、日本の食生活を楽しみ、その様子を発信してくれれば、中国の世論も徐々に軟化していくかもしれない。
また、習近平中国国家主席は9月にインドで開かれたG20(主要20カ国・地域)首脳会議に出席しなかった。外務省元幹部は「G20は、G7とグローバルサウスが一緒に集まる。世界に新しい秩序を築いてリーダーになりたい中国にとって欠かせない会議だ。習近平氏が欠席しなければならないほど、中国内に厳しい事情を抱えていたとみるべきだろう」と語る。国内が厳しければ、外に敵を作って国民の団結を狙うという手もあるが、処理水問題ではそれが裏目に出た。日本を悪者にして、国内の不満を吸収しようとしたところ、コントロールが効かくなって、対外関係も厳しい状況に追い込まれた。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、米中両政府は、中国の何立峰副首相の訪米を協議しているという。11月に米サンフランシスコで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせた米中首脳会談に向けた環境整備だろう。日中韓首脳会談を模索する動きと同様、中国が対外関係の立て直しを急いでいることはほぼ間違いない。日本産水産物の禁輸措置についても、すぐにとはいかないまでも、解除に向けた動きが徐々に始まるかもしれない。
誇り高い中国のことだ。ただで引き下がることはないだろう。外交テクニックには「譲歩と見えないような格好で譲歩する」というものがある。5月に発表された「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」もその一つだ。ここでは、「包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効もまた喫緊の事項であることを強調する」という文言が盛り込まれた。米国はCTBTを批准していないから、被爆国の日本としては大きな成果と言えるだろう。しかし、米国はもちろん、主催国の日本もこの点をあまり強調しなかった。強調すれば、米議会の共和党や軍関係者を刺激し、せっかくの文言が後からひっくり返される事態になるかもしれないと懸念したからだろう。
中国の場合、一般市民の生活と深くかかわる水産物禁輸措置の解除を発表しないで済ますわけにはいかない。おそらく、「処理水問題を協議する特別の日中協議体」などの創設を目指し、「日本が譲歩した」という形で禁輸措置解除にもっていく腹なのかもしれない。もちろん、日本としては中国だけを特別扱いできないから、合意は簡単ではないだろう。それでも、中国が自分のキャンペーンで招いてしまった「逆包囲網」は徐々に狭まっていると言えそうだ。
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