「学部横断型」の研究や教育はどう運営されているか
──現在のスタンフォードには、学部横断型プログラムが複数用意されていますね。日本の大学にいる私から見ると、実現が難しいのではないかと思います。
こうしたプログラムは、計画的に作られたというよりも、大学の歴史のなかで自然と生まれてきました。学問研究がひとつの学部にとどまらないことは多いですが、大学として重要なのは、授業やプログラムの質を担保することです。従って、教授は専門性を追求します。一方で、実用的要請に応える形で、元々の専門に加えて、他の専門分野と融合するような教育・研究を担う人が増えています。バイオデザインなどはその例です。
──ではスタンフォード大学はどうやって学部横断型の研究や教育を実現しているのでしょうか?
スタンフォード大学では、授業やプログラムを提供する「教育部門」、そのプログラムの質を精査する「学術部門」、そして技術開発や知識探求を進める「研究部門」が連携しています。研究部門が開発した知識や技術を、教育部門がカリキュラム化し、学術部門が承認することで、学部をまたいだプログラムの質が担保されているんです。最近は、起業に興味をもつ学生が増えてきていることから、こうした仕組みで質の高い起業家プログラムをもつことは、大学の魅力向上にも繋がっています。
──スタンフォード大学の起業家プログラムは教育と実践、どちらを重視していますか。アクセラレータープログラムとの違いを教えてください。
アクセラレータープログラムの目的は「ビジネスを加速させること」です。一方、教育プログラムが重視するのは「学生が何を学ぶか」です。
例えば、ビジネススクールが提供する「スタンフォード・イグナイト」は、実践を重視したプログラムになっていますが、目的は教育。プログラムが終わるとほとんどのチームは解散し、ビジネスの成功は重視されていません。
一方で、「StartX」のようなアクセラレータープログラムでは、プログラム終了後もビジネスをそのまま継続します。こちらは教育プログラムではありません。
大学が重視しているのは、「ビジネスと教育の線引き」です。明確な線引きをするために、ビジネススクールやロースクールは産業界と一定の距離を置いていますし、教育プログラムには、学術部門による承認が必要となっています。
──なぜスタンフォードからこれほど多くの起業家が生まれると思いますか。
スタンフォードはシリコンバレーの中心にあります。スタンフォードが人材や知識、アイデアを継続的に生み出し、シリコンバレーは資金を生み続けています。
このエコシステムのなかで、優良な人材や知識、アイデアを生み出すためには、世界中から最高の教員と学生を集めることが重要です。そうして世界中から集まったタレントたちが、高い目的を掲げて強いリーダーシップを担うよう切磋琢磨し教育されています。
スタンフォードの使命は、研究と将来の指導者の教育を通じて、知識を発展させ、社会に貢献すること。そして新しい知を求めるだけでなく、古いものを破壊して新しいものを創ることを重視しています。これはシリコンバレーがやってきたことと同じです。