特に「こうあってほしい」とNFTホルダーに強く求めることはないです。NFTを通じて多種多様な人が山古志に関わってくれる状況を作り続けるというのが我々の活動の目的ですし、どんな関わり方でも問題ないです。
Nishikigoi NFTは知名度があるので興味を持って入ってくる方が多いですが、現状ではただデジタル村民になれるというだけで大きなユーティリティはない。デジタル村民になった後に何をするかは個人に委ねられています。この余白がデジタル村民としての主体性を引き出していく。
リアルの山古志地域のそばにデジタル山古志村ができたという感覚です。パラレルな存在を現実にブリッジしているイメージ。予想できないようなアウトプットや反響が、リアルの山古志地域へフィードバックできていると思います。
──山古志地域の住民を巻き込む中で、配慮したことは。
細かな対応は山古志住民会議の竹内春華さんがやってくれています。当然、プロジェクトが話題になるほど「ちょっと怖い」「あれ何?」という反応が出てくる。それに対して、丁寧なコミュニケーションを取っています。
DAOやブロックチェーンの取り組みはよく「トラストレスでパーミッションレス」という言い方がされますが、僕たちのやっている取り組みはリアルとデジタルの融合。そこに辿り着くには、リアルとデジタルを橋渡しするコーディネーターを置き、顔の見える関係性でトラストフルなコミュニケーションが必要だと考えています。
竹内さんがリアル側とデジタル側に立ってかなり丁寧なコミュニケーションをとってくれるおかげで、リアル村民とデジタル村民が互いを認め合える状態が成り立っています。
──NFTを起点とした、ローカルDAOに発展した成功の鍵とは。
地域NFTは各地で取り組まれるようになりました。そのなかでも山古志地域では、なぜNFTから山古志DAOにまで発展しているのか、分析してみると3つの成功要因があったと考えます。
1.ファウンダーチームのバランス
まず、チームのバランスがすごくよかったこと。復興から18年間山古志に携わり続けている住民会議の竹内さん、ジェネラティブアートやブロックチェーンの領域で先頭にいるTARTのToshiさん、ローカル領域とテック領域をブリッジできる僕。この3人がファウンダーメンバーとなり、分野横断的なチームでスタートしたことが大きかったと思います。
2. 地域側の「新参者」を受け入れる素地
村の重鎮たちが受け入れてくれたことも成功要因のひとつ。最初に提案するときにはもちろん「こんなことが理解されるかな」という不安もありました。
しかし、山古志の重鎮たちは「面白いね、やろう」と即答してくれた。その背景には圧倒的な危機感と、震災復興から外の人の力を借りてきたという地域側の自負があったと思います。山古志側に新しいことをやる素地があったことが、大きく明暗を分けたと言えます。
実際に山古志に住む人もNFTを取得し、関心を持ってくれています。
3. NFTを活用した仕組みのデザイン、アートの力
山古志という無形の資産に、NFTを介して誰にでもアクセスできる状況を作ったことも重要なポイントです。そして、集まった人たちが山古志に自由に関われるような余白をデザインしました。
アートの力も大きいと思います。今回のプロジェクトでアートが果たしている機能だけを実現するなら、アーティストに関わってもらう必要はないようにも思えます。適当に住民票カードのような画像を作って発行するとか。でも、それではうまくいかなかったはずです。