豊島は大学で講義を行った際、学生に「テレビ番組は、テレビをつけたタイミングで途中から始まる。動画は始めから楽しみたいからテレビは観ない」と言われたという。
ものごとを伝える際には、こうした視聴者(聞き手)側のハードルを知った上で、伝え方を工夫する必要がある。実際に、『60秒で学べるNews』はこうした声に応え、「60秒であれば、始めから最後まで観てもらいやすいから」と生まれた。ニュースのVTRが流れたあとに、豊島やゲスト解説者が“60秒”で解説するという構成だ。
「良い聞き手」になる方法
豊島は自ら“伝える”だけでなく、専門家などのゲストに質問をし、時には議論しながらニュースを深掘りする役割を担うこともある。専門的な話を視聴者にわかりやすく伝える橋渡し役だ。相手の話を引き出しながらも場をコントロールし、流れをつくってまとめる。そんな「良い聞き手」になるためのポイントは、2つあるという。
ひとつは、相手の話が長くなりすぎているときに使うテクニック「身振りと視線」だ。
「相手が丁寧にお話をしてくださっているがあまり、説明が細かすぎたり繰り返しになったりしてしまうことがあります。そういうとき、じっと黙って聞いていては容認のシグナルととられてしまい、相手も話を続けてしまいます。そこで、実際に声は出さないのですが、手や口を少し動かし、視線でも話したそうな雰囲気を出します。すると相手が話を一区切りするきっかけになり、スムーズに入っていくことができるのです」
これは、オンライン会議での会話の“被り”を防ぐテクニックにもなる。突然話し出すのではなく、少し口を開けて待ってみると、「話したいのかな、どうぞ」という空気になるのだそうだ。
ただ、話の最中に割り込むのは、相手にとっては気持ちのいいことではない。「良き聞き手」になるためには、相手が直前まで話していた内容を反芻してから話しはじめることが大事だという。
「ここまでの話は聞いていましたよ、だからこうですよねという形で話すと、相手も話の腰を折られたという気にはなりにくいですよね」
もうひとつのポイントは、「波乱」を起こすこと。
話し手が複数いる場合、それぞれが自分に求められた役割を演じて議論するのは構図としてはわかりやすいが、そのまま終わるとつまらなくなってしまう。そこで面白くするために、“別の視点”を与えるのだ。
「例えば、複数の専門家と“台湾有事の可能性”というテーマで議論したとき。日本の防衛の専門家と中国の専門家などがいたのですが、ひとしきり真っ当な議論をしたあとで防衛の専門家の方に『逆にあなたが中国側の立場だったらどうしますか』と質問しました。これがうまくいって、もう一度盛り上がりを生み出すことができました」
豊島のわかりやすい解説は、専門家に無駄なくスムーズに話してもらい、適切なタイミングで発言を引き継ぐ、「聞き手」としての能力の高さによっても支えられているのだろう。
こうした豊島キャスターの「伝え方」そして「聞き方」を、明日からのコミュニケーションに活用してみてはどうだろうか。