「政治家の着ているスーツは黒かグレー。中年以上の男性で、髪は薄い。スポーツカーの色は黄色か赤で、女性の髪は長く、おそらく美人」。スーツやスポーツカーの色、政治家の性別女性の容姿についての情報は一切ないが、これに近い想像をした方も多いのではないだろうか。色や形まで想像できるように、聞き手側との共通認識を押さえながら言葉を取捨選択することが大切なのだ。
「特に経済ニュースの場合は、聞き手がビジュアルを想像できるような話し方を意識しています。例えば、『リニューアブルエネルギーが〜』と話すよりも、『太陽光や風力といった再生可能エネルギーが〜』と表現した方が、より多くの方がイメージしやすいですよね」
また、最近では「引き算」や「言葉選び」に加えて、「ストーリー」も意識している。物語にすると、引き算をしなくても伝わるケースがあるからだ。例えば、「高齢者・山・川・桃・犬・猿・きじ・鬼」。これらの単語をバラバラに言われると覚えるのは大変だが、桃太郎の物語を知っている人であれば、すんなりと覚えられるはずだ。
「複雑で長い話も、ストーリー仕立てにして伝えることで記憶に残り、理解も早くなります。ですので、解説をする際にもなるべく順序立てた物語のように話すようにしています。ただ、ニュースをストーリー仕立てにするのは難しいので、まだ訓練中です」
視聴者に政治や経済の動きを理解してもらう上で理想とするのは、海外のシリアスな政治系ドラマ。米国の作品だと『The West Wing(邦題:ザ・ホワイトハウス)』や『The Newsroom(邦題:ニュースルーム)』などである。
「視聴者に政治経済の現実を、ストーリー性を持ってリアルにかつ分かりやすく伝えるというのは、日本の報道分野で十分に手がつけられていない最後の分野ではないかと思います。特にテレビは“見せ物商売”の側面があるので、エンターテインメント性を意識しないわけにはいかないですしね」
60秒で伝えるか、1時間で伝えるか
では、伝えるために要する“時間”は、短いほうが良いのだろうか。長いほうが良いのだろうか。答えは両方だ。あくまで方法論が異なるだけ。実際に豊島は、60秒から1時間以上まで様々な尺での解説をこなしている。テレビ東京では、タイパ需要に対応した番組として地上波で「60秒で学べるNews」を放送。過不足なく多面的な情報を聞きたい人のためにYouTubeで30分〜1時間と長尺の解説番組を配信しているのだ。
豊島はキャスターとしての立場から、以下のように分析する。
「久米宏さんが『ニュースステーション』で報道をお茶の間に届け、池上彰さんがニュースをわかりやすく伝えた時代を経て、今は国民総メディア時代に突入しました。伝え手は、正しい情報をクイックに伝えることはもちろん、時間がかかってもいいので情報を多面的にかつ深掘りし、丁寧に伝えていくことも求められています」