今、アメリカで最も注目を集める書籍のジャンルはロマンス小説だと言っても過言ではないだろう。『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラー・リスト(ペーパーバック)では上位10作のうち、栄えある第1位を含む7作がロマンス小説だ(注1)。そして、その7作のうち4作がコリーン・フーヴァーの作品である。
コリーン・フーヴァーとは何者か
自費出版作家としてキャリアをスタートさせたフーヴァーは、2022年時点で累計2000万部を売り上げ(注2)、2023年には『タイムズ』の「世界で最も影響力のある100人」リストに名を連ねている(注3)。
フーヴァーが手がけるロマンス小説はサイコスリラーもの、ミステリもの、ヤングアダルトものと多様なのだが、共通の特徴がある。読みやすいなめらかな文体、読者の共感を呼ぶ登場人物、ジェットコースターのような急展開だ。読み始めたら最後、寝食すら忘れてページを繰り続けてしまうような中毒性がある。
しかし、なぜ今ロマンス小説がこれほど読まれているのだろうか?
そもそもベストセラーリストを飾るフーヴァー作品は最近出版されたものですらない。代表作の『イット・エンズ・ウィズ・アス ふたりで終わらせる』(相山夏奏訳、二見書房、2023年3月)が出版されたのは2016年。出版当初もそこそこ売れはしたものの、人気に火がついたのは2021年になってからだった。TikTokやInstagramの読書家コミュニティで話題となり、43か国での発売が決定。さらには映画化も実現する大ヒット作へと成長した。
キーワードは「共感」、「シェア」
SNSが人気の発端という現象からも見てとれるとおり、現在フーヴァー作品に夢中になっている層は、従来のロマンス小説の読者(40~50代の女性(注4))とは少々異なる。Z世代を中心とした10~30代なのだ。上の世代にとっては「周りの人には読んでいることを知られたくない、背徳の愉しみ」だったロマンス小説を、自分らしくありのまま生きることを重視するZ世代は包み隠したりしない。どういうところが好きなのか、読んでいてどう感じたかを、SNSで熱く語る。
彼らはいわば、「読書以上のエクスペリエンス」を本に求めている世代だ。#booktok、#bookstagramなどのコミュニティは読書の満足度をさらに高める。これらの場所での「共感」、「共有(シェア)」が(紙の)本を購入する動機になり、次に読む作品を見つけるヒントにもなる。登場人物のやりとりにときめき、ハラハラドキドキしながら読み進め、ハッピーエンドに涙できるロマンス小説は、そうしたエクスペリエンスにうってつけだと言えるだろう。
この傾向を受けて、ロマンス小説の装丁も「映える」ものへと変わりつつある。従来は美男美女の写真を使用するのがお決まりだったが、『没落令嬢のためのレディ入門』(ソフィー・アーウィン著、兒嶋みなこ訳、ハーパーコリンズ・ジャパン、2023年8月)など最近出版されるロマンス小説のカバーにはポップで人目を引くイラストが用いられている。