音楽

2023.09.24 11:00

セマくフカく、刺さる。海外リスナーも熱狂するシンガー・春ねむり

「ライブはもちろん盛り上げることも重要なのですが、家に帰った後に思い出してもらえるくらいのものを届けたい。そうじゃないと、自分がライブする意味はあんまりないなって思うようになりました。『友達との関係で悩んでいたので、今日この曲をやってくれて嬉しかった』などと言われたときは嬉しかったですね」

ポジティブなエネルギーと同じぐらい、ネガティブなエネルギーも大事。だからこそ、盛り上がらなくてもいいから演奏したい曲もある。今年8月に大トリを務めたSUMMER SONIC 2023の「Spotify RADAR: Early Noise Stage」でも、「盛り上げて帰るだけなら誰でもできると思うから、今日帰って、“春ねむりがあんなこと言ってたな”と思い出してほしい」とオーディエンスに語りかけた。

数%の人たちに深く刺さる音楽を

9月29日には新作EP「INSAINT」をリリースする。約30都市でのライブツアーや、自身が最も影響を受けたというバンド「FUGAZI」のイアン・マッケイとの邂逅を経て制作された作品だ。先行リリースした「わたしは拒絶する」には、ジェンダーなどの“レッテル貼り”を拒絶し、社会における“健常”の意味を書き直す、というメッセージが込められている。

春ねむり HARU NEMURI「わたしは拒絶する / I Refuse」(Official Live Video)

近年は逆輸入の形で、日本の音楽シーンでも大きな存在感を放つ春ねむり。いまの目標を尋ねると、こう話した。

「私は、社会の中の数%の人たちに深く刺さる音楽をやりたいと思っています。でも、それで稼いでいかなきゃいけないってなると、母数を増やすしかないんですよね。だから世界中で広く活動していきたい」

中学生から大学生ぐらいの学生リスナーにもっと届けたいという想いもある。海外ではライブハウスの年齢制限で10代がライブに来られないことも多く、現在の中心リスナーは20〜30代。学生時代の自分に聴かせたい音楽をつくっているからには、学生にも届くようにと活動の幅を広げている。

少し先の目標は?と聞くと「死なないこと。私が死んだら“裏切られた”って感じる人がたくさんいると思うから」と語る。その言葉からは、オーディエンスの前に立つ者としての覚悟が見て取れた。

「死なない程度に頑張って稼ぎたいです。それでもし余剰が出たら、何か人のために使いたいです。動物でもいいですね、好きなので」




春ねむり◎はる・ねむり 1995年生まれ、横浜出身。自身で全楽曲の作詞・作曲・編曲を担当する。2018年、1stフルアルバム『春と修羅』をリリース。翌年ヨーロッパの巨大フェス「Primavera Sound」に出演し、6カ国15公演のヨーロッパツアーを開催。2022年、2ndフルアルバム『春火燎原』を発表し、米メディア「Pitchfork」でも高得点を獲得。2023年、北米、UK、アジアツアーを開催した。

文=田中友梨 写真=山田大輔

連載

30 UNDER 30 2023

ForbesBrandVoice

人気記事