音楽

2023.09.24

セマくフカく、刺さる。海外リスナーも熱狂するシンガー・春ねむり

シンガー・春ねむり

「これが新世代のジェイポップ、こころはロックンロール」

自身の音楽性をそう表現するのは、北米、ヨーロッパ、アジアをツアーで回るなど、世界を股にかけて活躍する春ねむり。シンガーソングライター、ポエトリーラッパー、プロデューサーの肩書きを持つ、横浜出身の28歳だ。

愛や怒りといったざらざらした感情を曲に乗せて、歌い、叫ぶ。そのずば抜けた表現力に、世界中のリスナーが心を動かされて、米メディア「Pitchfork」で高得点を獲得(フルアルバム『春火燎原』で)するほど国際的な評価を受けている。

彼女が放つメッセージは、決して万人受けを狙ったものはない。本人の言葉を借りると「全然友達ができなくて、教室の隅で一人でごはんを食べているような人」に向けて歌っている。それゆえに一部のリスナーに、深く、深く刺さるのだろう。

そもそも彼女はなぜ、世界に飛び出したのか。その先に何を目指しているのか。話を聞いた。

原点は学生時代の「しんどさ」

春ねむりの創作の原点は、学生時代にある。幼少期からクラシックピアノを習っていたが、意識的に音楽を聴くようになったのは中学生のとき。周りの友達がチャットモンチーや椎名林檎を聴いていた影響でJロックを聴くようになり、中でもフジファブリックに魅了された。

「高校にあがると、自分でも音楽をつくってみたいと思い始めました。1人の友達と『うちらでバンドやりたいね』って話になったんですけど、友達が少な過ぎて『バンドメンバーを集めるのは絶対無理だ、どうしよう』ってなって。そのときにパソコンで音楽がつくれることを知り、やってみることにしました」。これが初めての音楽制作だった。

学校では、真面目で目立たない子だった。「めっちゃ暗くて(笑)、勉強が得意だったんですよ。勉強を頑張っていれば親に文句を言われないだろうと思ってました」。このときになんとなく感じていた「しんどさ」が、今の“叫び”につながっている。

「そのしんどさが明確になったのは、大学に進学してからです。いろんな人と出会って、世界がパーっと広がって。家族からはグレたと思われましたね。実家から大学に通っていましたが、全然門限通りには帰らなくなりましたし」

大学3年生になると、ついに家出する。友人とのバンドを解散後、すでにラッパー・春ねむり名義で活動していた彼女は、音楽と学業との両立が難しくなっていた。「音楽をやり続けないと後悔する」と思っての決断だった。

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文=田中友梨 写真=山田大輔

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