音楽

2023.09.24 11:00

セマくフカく、刺さる。海外リスナーも熱狂するシンガー・春ねむり

田中友梨
2016年9月に川崎市で開催されたフェス「BAYCAMP2016」のFREE THROW DJ TENTに選出され、少しずつ注目されるようになる。10月に1stミニアルバム『さよなら、ユースフォビア』でデビュー。2017年には初のワンマンライブを開催した。

このとき、「海外」はまったく視野になかったという。海外進出のきっかけは、2018年にエントリーして出演した台湾の野外音楽フェス「Spring Scream 2018」だった。当時は現在に比べて安価で台湾に渡航できたこともあり、大阪や沖縄に遠征する感覚でエントリーした。

「エントリーすれば誰でも出られるフェスに、リュック1個で行って出たりしていました。家族でやってるコピーバンドだらけのイベントもありましたね(笑)」

結果的に、このフットワークの軽さが実を結び、ライブパフォーマンスを見た関係者が他のイベントを紹介してくれるという循環ができた。2019年にはアジアツアーを回り、ソロでヨーロッパツアーも開催。徐々にその名が知られるようになる。

ライブは盛り上げるだけでいいのか?

「いつぐらいからだろうな。ライブがすごく良いねって褒めてもらえることが多くなりました。自分でも“ライブを見てもらえたら次に繋がる”というのが分かってきて。海外からのオファーが来るようになってきたんですよね」

春ねむりの最大の魅力であるライブパフォーマンスは、2018年4月にフルアルバム「春と修羅」をリリースしてから今の形へと変化した。EDMのような“踊れる曲”を入れたことや、スクリームを習得したことで、ライブに動きが出てきたのだ。

「もともと、仁王立ちで歌って終わる感じだったんです。バンドが好きだったので“踊る”っていう発想がなくて。ですが、スクリームができるようになって、スクリームって体全体のエネルギーを使うので、必然的に体が動くようになりました。そしたら、踊れることにも気がついて。人間の体って自然と踊れるんですね」

このスタイルは、特に海外のオーディエンスにはまった。日本では「暑苦しくてうざい」と言われることもあったが、海外では会場が一体となって盛り上がった。ただ、そのうち「ライブって盛り上げるだけでいいのかな」と考えるようになる。

「海外は特に、盛り上がりたくてライブに来ている人が多いんですよね。だから何を言っても、何をやっても盛り上がっちゃう。盛り上げるだけであれば、誰でもできるんじゃないかって」

春ねむりは、楽曲を介して人間が持っている“根源的なもの”に触れたい、という想いで音楽をつくっている。それゆえ、「大量消費社会における一瞬の快楽のようなライブをやり続けていたら、この先ライブが嫌いになりそうだ」と感じていた。
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文=田中友梨 写真=山田大輔

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