ここに、金正恩による訪ロの重層的な意味の1つを読み解く最初のカギがある。プーチンはおそらく、中国にこんなメッセージを送った。ウクライナでの戦争でロシアが必要としているものを中国が提供しないのなら、中国は罰を受けずには済まされない──。
数十年にわたって、中国は北朝鮮にとって最大の貿易相手国であり、予想困難な国である北朝鮮に対して世界で唯一、影響力を行使できる存在でもあった。ロシアはこれまで、北朝鮮との関係は不毛で大規模なインフラ投資も必要になるとみて及び腰だった。中国を刺激したくないという判断もあったのかもしれない。
中国は、金正恩が列車で通った戦略的に重要な土地をめぐって不満を抱えている。国境地帯の中国側には、中国の領土喪失を図版や映像で伝える博物館まである。つまり、一帯は非常にシンボリックでセンシティブな場所であり、プーチンはそのことも知っている。
そのうえでプーチンは、北朝鮮との関係をあらためて強化すると大々的に示してみせた。中国に対して、これからはすべてが変わると警告を発した。ロシアが必要としている武器を中国が供給しないということなら、ロシアは北朝鮮に対する中国の(不安定な)優位性に挑むだろう──。
ロシアはイランからのように、金正恩の北朝鮮からも役に立つ武器をいくらかは調達できるに違いない。ロシア国内の工場は満足に稼働できておらず、ウクライナでの戦争の需要を満たせていない。中距離砲はロシア軍の大きなアセットであり、実際、ウクライナ軍による防衛線の突破を遅らせている。地雷もそうだ。
北朝鮮はロシアに必要最低限の野砲や砲弾、地雷を補給できるだろうし、旧式のロケット弾も提供できるだろう。だが、それ以上はあまり期待できそうにない。したがって、プーチンと金正恩が仰々しい首脳会談をしたところで、戦争の趨勢は変わらないだろう。
とはいえ、ロシアはそれによって、ロシアへの最大の武器提供国になる力を秘めた中国を動かせるかもしれない。中国が傍観すれば、代わりにロシアが北朝鮮の新しい「兄貴分」になりかねないからだ。ロシアはさらに、北朝鮮の軍事力向上を支援しようとするかもしれない。軍事同盟は双方向に機能するものである。ここに、金正恩訪ロの意味を解き明かす2つ目の重要な手がかりがある。