陸上自衛隊東北方面総監を務めた松村五郎元陸将は「プーチン大統領は、ゲラシモフ参謀総長やショイグ国防相などロシア軍主流派を牽制する勢力としてプリゴジン氏のワグネルを使ってきました。これからも主流派の力が強くなり過ぎないようにするために、プリゴジン氏とワグネルに代わる人物と組織が必要になるでしょう」と語る。プリゴジン氏の「反乱」が起きたのは6月下旬だった。プーチン氏は当時、プリゴジン氏らの行動を「反逆」と決めつけ、「厳しい措置」を宣言していた。松村氏は、プリゴジン氏が健在だった2カ月間について、プーチン氏がプリゴジン氏とワグネルの「後釜」組織化にめどをつけるために必要な時間だったとの見方を示す。
自分の部下たちをストーブパイプ(縦割り状態)にして、お互いを競わせると同時に、連携しないように仲違いさせる。まるで、人気アニメ「鬼滅の刃」に登場する鬼舞辻無惨が、手下の鬼たちに仕掛けた操縦法とそっくりだが、現実の世界でも独裁者たちがしばしばこの手法を用いる。
北朝鮮で2013年12月に処刑された張成沢国防副委員長もその一例だ。2011年12月に死去した金正日総書記は自らが敷いた、軍が何者にも優先する「先軍政治」を悔いていた。巨大化した軍が息子の正恩氏をのみ込んでしまうかもしれないと恐れたからだ。金正日総書記は義弟の張氏に対し、当時の北朝鮮政治を牛耳っていた軍や党組織指導部、国家安全保衛部(現国家保衛省)の力を削ぐよう命じた。張氏は軍などの利権を奪い、自身が率いる朝鮮労働党行政部に加えていった。怒り狂った軍人たちは、まだ何も知らない正恩氏に「張が国を乗っ取ろうとしている」と讒言し、彼を死の淵に追いやった。
北朝鮮では、当局者たちが自分のポストを利用した利権活動に忙しく、その利権を使って最高指導者が喜びそうな政策を推進して媚びを売る。当局者たちの間でお互いの政策調整はない。このため、ある者は日朝首脳会談を推進し、別の者は核やミサイル開発に狂奔する。外から見ていると、「北朝鮮は一体、何をしたいのか」と不審に感じることになる。