この図式で極めて重要なのは、中国におけるコストの上昇だ。中国の賃金上昇のペースは、日本をはじめとするアジア諸国や中南米だけでなく、欧米をも上回っている。中国国家統計局によると、同国の都市部の賃金は過去5年間で年平均8.6%上昇した。これは米国の年平均賃金上昇率4.4%のほぼ2倍に当たる。確かに米国の賃金は依然として中国の賃金よりも高い水準にあるが、その差はかつてよりもはるかに小さくなっており、企業経営者にとって中国の賃金がかつてほど魅力的でなくなったことは否めない。中国のコスト上昇は、欧米や日本の生産者や買い手がインドや中南米、東南アジアなどに目を向ける大きな要因になっている。特にベトナム、フィリピン、インドネシア、メキシコは、投資や購買意欲を中国から転換させることに成功している。
こうした状況は、中国が経済発展モデルを変える必要があることを示している。中国は過去数十年間にわたって、安価で信頼性の高い生産という評判に頼りながら成長を推進してきた。それはもはや不可能であるため、同国は成長モデルを消費者のニーズや内需全般への依存度を高める方向に転換すべきであろう。中国政府はこれまで、こうした必要性に口先だけで応じてきたが、実際には国の指導者らは経済を再調整する現実の努力よりも、変化についての美辞麗句に終始してきた。実際、この美辞麗句は、特定の製品分野で世界的に優位に立つという習近平国家主席が表明した目標とも相反していた。過去の矛盾を考えると、明らかに緊急性を増しているにもかかわらず、中国政府がこの課題に取り組んでいるとは到底思えない。
(forbes.com 原文)