ブック

2023.09.08 08:15

ビジネスに通じる『シン・エヴァ』のつくり方 前代未聞のプロマネ本が生まれた理由

『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン』の書影

──内部評価・外部評価、総括というかたちで、庵野秀明総監督をはじめ多くの関係者に話を聞いています。
advertisement

成田氏:プロジェクト報告の形式を参照しているので、内部評価を載せることにしました。当初は鶴巻監督、前田真宏監督、そして轟木一騎総監督助手の3人に話を聞こうとしていたのですが、庵野さんから人選の追加と、外部の人にも話を聞くことを提案されました。

最終的に内部評価、外部評価で話を聞いた方々、カラー代表取締役副社長の緒方智幸さん、取締役の安野モヨコさん、スタジオジブリ代表取締役プロデューサーの鈴木敏夫さん、ドワンゴ顧問の川上量生さんなどの人選は、庵野さんからの指定です。しかしその人を指定した理由について、庵野さん自身はあまりはっきり言及しません。内部評価においては「この人がいなかったら、『シン・エヴァ』という作品の制作はいまと異なる結果になっただろう」、外部評価においては「さまざまな状況や事情に深く通じたうえで、一定の距離感をもってプロジェクトを評価できるだろう」という人が指定されたのではないかと考えています。

企画当初から、庵野さんにはプロジェクト総括というテーマでインタビューをするつもりでした。庵野さんのもつ知見や経験は、世の中へすごく役に立つものがあると勝手ながら思っています。そして、「庵野秀明がこの時代にこう言っていた」ということを記録することも大事だと考えていました。なので、質問で「AIの登場で監督の役割はどうなっていくか」といった、プロジェクト総括の趣旨から外れたことも聞いています。ただ、問い自体は趣旨から外れていますが、答えにはプロジェクトに接続する知見があると思っています。庵野さんによる総括のタイトルに「ver1.00(2023年1月20日版)」と付しているのも、10年後に話を聞いたらちがう総括をするかもしれないという、前向きな更新性を暗にメッセージとして込めています。
『シン・エヴァ』の制作時に使用された原画など。成田氏は制作進行を務めていたため、プロジェクトの成果物等を把握しやすい立場にあったという。

『シン・エヴァ』の制作時に使用された原画など。成田氏は制作進行を務めており、担当していたカットで使用された実際の素材。


──『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン』を通じて、読者へ伝えたいことは。
advertisement

成田氏:書籍をつくるなかで気づいた動機なのですが、なぜ、これまでに世の中で生まれた大きなもの、独特なもの、大変だったものをプロジェクトという観点で振り返る書籍がこうも少ないのだろうと。後世に受け継ぐプロジェクトの知見として、残すべきだろうと。すごく残念に思ったんです。そしてこのままだと、10年後には自分もそう言われる側にいるだろうと思い至りました。つまり、好むと好まざるにかかわらず、自分はすでに次の世代に伝える側の立場になっているという気づきです。であれば、不完全でも不十分でもいいからやり始めなきゃしょうがないと、今回の書籍をつくっていきました。
次ページ > 『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン』が正解だとは思わない

文=加藤智朗 画像提供=カラー

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事