取得したのは日本国内では4社目
コロナ禍を経て、世界はより安心・安全で、環境などに配慮したサステナブルツーリズムを求めるようになったが、こういった制度を受け入れて、新たな持続可能な観光のあり方を示すことは、旅行者から選ばれる観光地になるためにはもちろんだが、何よりそのための努力や実践過程そのものがSDGsの実践につながるということが重要なポイントなのだ。つまり、ロゴマークの取得が本来の目的ではなく、観光ビジネスを進めるうえでの「生業」や「営み」のなかで、取得のための課題の実践が、サステナブルツーリズムの実践としてのベストプラクティスとして社会に発信されることが真の目的だろうと考えている。
ちなみに、日本国内で「Travelife Certified」として登録されているのは、現在、インバウンド専門の大手旅行会社「JTBグローバルマーケティング&トラベル」のみで、今回、SATOYAMA EXPERIENCEが取得した「Travelife Partner」は、日本では他には「デスティネーションアジアジャパン」「北海道宝島旅行社」「東武トップツアーズ」の3社だ。
そのなかで、岐阜県の飛騨市古川を拠点とする「SATOYAMA EXPERIENCE」のみが、代表の山田氏の言葉を借りれば「本物の地方部の、田舎の、規模も、小さな会社」だということになる。ローカルの小さな会社であっても、やるべきことを行なっていれば、世界から認められるということなのだ。
山田氏との出会いは2009年にさかのぼる。彼が大学卒業後に就職した大手コンサル会社を退職したのち、足かけ2年29カ国にわたる世界放浪の旅から帰国、地方部の原風景に受け継がれる日本文化の価値を再認識したいと岐阜県の飛騨古川に移住し「クールな田舎をプロデュースする」をスローガンに「美ら地球」を設立して2年後のことだった。
その年、私は岐阜県の観光交流推進局長に任命され、各地の隠れた「宝もの」を探そうと県内を巡っていた。その頃も従来型の観光開発ではなく、岐阜県ならではの自然資源や伝統文化などの地域資源を活かした観光事業を進めようとしていた。
めざしていたのは、いまでいうサステナブルツーリズムそのものであり、そんなときに出会ったのが、まだ30代半ばの山田氏だった。
一緒に岐阜県に移住してきた奥さんの慈芳(しほ)さんとともに、古民家をオフィスにした一室で、自らの旅人経験を活かし、里山や民家など地域資源を活用した新しいツーリズムを推進したいんだと目を輝かせながら語っていた姿に、私自身の岐阜県の観光振興策とも重なることを確信した。
2009年当時、私や彼は、これからの旅のスタイルは、団体旅行から個人旅行や少数の体験型旅行としてのパーソナルリクエストにどれだけ答えられるかが問われる時代になると確信していた。でもその考えが浸透するまでにはそれなりの時間も必要だった。