研究チームはまた、この神経人工装具と、これと結び付けられた電極が、正常に機能している動物の海馬に埋め込まれた場合、実際に脳で生成されている記憶を増強し、正常なラットの記憶能力を強化することを確認した。
この結果からわかるのは、記憶に関する神経信号に十分にアクセスできれば、コーディングのプロセスをリアルタイムで特定・操作できる神経人工装具が、認知プロセスを強化できる可能性があるということだ。
さまざまな倫理的・社会的懸念
ただし、こうした目標には、さまざまな倫理的・社会的懸念がついて回る。以下にその例をいくつか挙げよう。・同意と自主性
自分の脳と機器の間で直接つなぐことで生じるメリットとリスクを、被験者に100%理解してもらうにはどうしたらいいだろうか? これは特に、患者が、次第に悪化する神経系の症状を抱え、藁にもすがる思いで治療法を探しているケースで大きくクローズアップされる問題だ。
・認知能力における公平性
これらの技術を利用できるだけの金銭的余裕がある人々は、そうでない人々に比べて、認知能力で優位に立つ可能性がある。だとすると、平等なアクセスを確保し、認知能力の強化が「持てる者」だけに可能になるシナリオを阻止するためには、どのような方策が必要だろうか?
・アイデンティティと人間性
もし我々人間の記憶や思考、学習プロセスの増強や操作が可能になったとしたら、そのことは、人間としてのアイデンティティや「自我」の意識に対して、どのような意味を持つのだろうか? BCIによる認知機能の強化がどこまで進めば「人間らしさ」の境界線を揺るがすようになるのだろうか? そして、機能強化を追求するなかで起きうる個性の喪失に、どう折り合いをつけるべきだろうか?
我々がこの分野をさらに深く追求するには、未来に起きうる事態に対応した政策や規制を用意し、BCIの開発が人間の利益を最優先するかたちで進められるよう、万全を期すことが不可欠だ。
結論
20年前、スマートフォンはSFに登場するだけの、手の届かない製品だと考えられていた。そして今、BCIの可能性について考えるとき、我々の脳裏には、当時スマートフォンに抱いていたのとよく似た、畏怖や驚きの念が浮かぶ。BCI技術がどう進化するのかについて正確な予測は不可能だが、革新的な変化をもたらすための条件はすべて揃っている。近い将来我々は、超人的な記憶力が、ファンタジーではなく達成可能な現実になる未来を目にするかもしれない。そうした新時代の到来を目前にした今、社会がこの技術に関する議論に積極的に関わり、BCIの未来を形作っていくことが重要になる。
(forbes.com 原文)