ただし、各事業者は世界レベルでは小型企業であり、国内の社数が多い。投資額も半導体生産設備に比べると小さい。JSRは事業集中とM&Aを含む投資を進めるために資本力を増強する。日本のフォトレジスト事業の再編も目的だという。
官民ファンドの存在意義にかなう投資といえるだろう。「民間だけでは無理な投資案件、民間の背中を押すための公金の投入」が官民ファンドの創設趣旨であり、本件はそれに該当する。
だが、留意すべきは、これまで官民ファンドは、全般に必ずしも上首尾に運んできたとはいえない点である。すでに廃止されたファンドもある。JICもその前身時代から苦戦してきた。原因を精査して、本件がこれらの轍を踏まないように十分留意してもらいたい。
官民ファンドの失敗例の多くは、事業特性を踏まえた経営実務の感覚が希薄なことに起因している。ハンズオン支援を口にするが、実際にそこまでの現場経験をもっているのか疑問に思うことも少なくない。JSR案件でも、修羅場でもまれた経営手腕が肝心だ。経営は民に任せ、官民ファンドは頭でっかちとなりがちな口出しをすべきではあるまい。
他方で、自由な民間市場の資金調達機能が気になる。JSRのような案件で、公募増資や社債発行といった「民の、民による、民のためのファイナス」は無理になってしまったのか。流通市場こそ活況だが、発行市場はいまひとつさえない。市場改革やガバナンス改革は流通・発行両市場に均霑すべきもので、企業の資金調達や新規公開市場にも資するものであって欲しい。
昨今の政府主導主義はあくまでも非常時のものと位置付けたい。アトリー内閣を他山の石とすべきだと思う。本質は健全な競争による民の自助の力に宿る。明治期のリーダーたちが熟読した『西国立志編』(サミュエル・スマイルズ著。原題『Self Help』)の精神をあらためてかみしめたい。
川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。