その後、90年代から20年ほど続いた世界的な市場自由主義は、政府主導の経済運営へのアンチテーゼであったような気がする。人々は自由に競争し、成長と富の蓄積は市場が決めていく、政府関与は必要最小限にとどめる、という考え方だ。ウォール街は繁栄を謳歌し、日本の小泉改革などもこれに倣った。
ところが、ここへ来て、主要な資本主義諸国は経済運営への公的関与を強めている。主要因は国際情勢の混迷、米国の相対的地位の低下と中国の台頭にある。自由な資本主義国家ですら、戦略的な産業は政府が前面に出て対応しないと競争に負ける、という焦燥感がこれに拍車をかけている。
典型的な分野が半導体産業である。いまや「産業のコメ」といわれる半導体への関係国政府の注力には並々ならぬものがある。米国は昨年、半導体の国内生産を促すCHIPS法を制定して7兆円の公的補助を決めた。欧州連合は今年4月に欧州半導体法案に暫定合意し、6兆円を投じるという。サムソンやSKハイニックスを擁する韓国は、K半導体ベルト構想を打ち出し、税制支援を含む広範な政府支援を敷く。
昔日の面影すらない日本も、政府が本腰を入れ始めた。向こう2年間の2兆円の補助を決め、民間連合が設立したラピダス社への巨額の補助も行う。
加えて、官民ファンドが参戦した。フォトレジスト(感光材)で世界最大のシェアを持つJSR社に、産業革新投資機構(JIC)が5000億円を投じ、民間金融機関からの融資等を組み合わせて1兆円弱の株式公開買付を行うものだ。