アート

2023.07.31 17:00

マイノリティの優遇と逆差別。知的障害者の目にはどう写るのか│松田崇弥x堤大介

岩手県花巻市のるんびにぃ美術館を訪問するヘラルボニー創業者の松田崇弥(中央左奥)と松田文登

重要なのは自分で「選択」すること

松田:私たちはダイバーシティやインクルージョンなど、時代の大きな流れに相乗りさせていただいて、仕事をいただいていることは重々承知していますが、SDGsの17項目を守ればいいとか、社会側がどんどん正解を提示することは、私たちが考えることを放棄することにつながるようにも感じます。
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障害のある人は大切にしなければいけないとか、頭の中で正解はどんどん膨らんでいくけれど、実際に障害のある人に会ったことがないとか。実体験が伴わないまま、考え方だけ享受されていくと、多様にはならないのではないでしょうか。自分で選択して選び取ることが大事ですよね。
作家の八重樫季良と松田崇弥

堤:
いまでもよく言われますよね。「マイノリティを優遇するのは逆差別だ」と。ダイバーシティやインクルージョンで言うと、僕が今アメリカで監督をやらせてもらっているのも、「マイノリティ優遇」の流れの影響がすごくあるわけです。

今この時代に僕がマイノリティじゃなかったら同じチャンスをもらっていたのだろうか、と考える事もありました。でも、大きな視点で人間社会の発展を考えた時に、ちょっと力づくでも軌道修正をしなければならない時があるのかなと。
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もっと言うと、人間とは誰でも何かと理由をつけて差別をしてしまう、そういう“闇のファンクション”を誰もが持っていると思います。だからそれを押さえつけるものを社会全体で軌道修正するのは多少あった方がいいと思うんです。そしていつか「そんなもの必要なく全ての人が平等に」となることが一番の理想なんですよね。

松田:軌道修正はたしかに必要かもしれませんね。

僕らはいろんな枠組みで人を認識します。「堤さんはピクサーにいらっしゃって、アジア人監督として賞を受賞されている人だ」とか。でも、もし私の兄が堤さんに会ったら、きっと「ただのお兄さんだ」と思うでしょう。

知的障害のある人の思考は本当にシンプルで、資本主義みたいなものから逸脱する権利をもらっているのかもしれませんね。この人は決裁権があるとか有名だとか、そういうことよりも「ステキかどうか」をシンプルに判断します。そういう知的障害のある人から得られる気づきを伝えることができたら嬉しいです。

2つの「大きな波」の中で次世代に何を伝える

——「分断」に向き合ってきたお2人から見て、近年社会の変化を感じることはありますか。

松田:私たちは飲食業界に進出しようと考えていて、先月、フランスとオランダに視察に行ってきました。オランダには「Brownies&Downies」という障害のある人が働くセンスのいいカフェチェーンがあって、50店舗以上も展開しているんですよ。
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文=久野照美 聞き手=山本智之 編集=田中友梨

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