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2023.08.04 11:30

AIはイノベーションを生むのか? ChatGPTと日本の「勝ち筋」

(左から)三宅陽一郎、大澤真幸、井上智洋

ChatGPTなど生成AIによって、いまの社会と経済は本当に根本から変わるのか。経済学、社会学、AI開発の3つの分野の日本の先鋭たちが考察する。

ChatGPTなど生成AIが急速に広がるなか、その対応に世界が追われている。ChatGPTはこれまでのAIとどう違い、最終的にいまの経済や社会はどう変わる可能性があるのか。経済学者でAIについても詳しい井上智洋(駒澤大学准教授)、社会学者の大澤真幸(元京都大学教授)、AI研究者の三宅陽一郎(スクウェア・エニックスAI部ジェネラル・マネージャー兼リードAIリサーチャー)の3人に語ってもらった。

井上智洋(以下、井上):ChatGPTを使ってみて、汎用人工知能の原始的な形態がついに出てきたという印象をもちました。ただ、GPT-3.5はまだ言葉の世界にとどまっています。何かを説明したり、文章を要約したりするだけでも、多くの人を驚かせるレベルには達していますが、言ってみれば家にひきこもってネットサーフィンをしている偏差値エリートみたいな存在です。

しかしGPT-4では、画像や音声と言葉を組み合わせるなど、マルチモーダルな入出力を扱うことができますから、言葉だけで閉じている世界からは飛び出しているんですね。その点で、汎用人工知能にさらに近づいている感じがします。とはいえ、人間の思考と同じとは言えません。人間のように、環境とインタラクティブな体験を通じて、感性データを蓄積しているわけではないからです。その意味では、汎用人工知能へのブレイクスルーではあるけれども、人間的な知性のレベルには到達していないというのが、ChatGPTに対する率直な感想です。

三宅陽一郎(以下、三宅):確かに汎用人工知能への足がかりにはなる気がしますね。ただ、人工知能がグラウンディング、つまり言葉と現実の事物の対応ができているかというと、マルチモーダルになっても、まだできていないと思います。ChatGPTはさまざまなトピックの言語を操れているように見えるので、AIと人間の超えられない垣根を超えているように思えるんですよね。

大澤真幸(以下、大澤):GPTが本質的に人間的な知性なのかどうかという問題と、もっとプラクティカルに考えて、僕らの生活にどういう影響を与えるかという問題は、分けて考えなければいけないと思うんです。

前者については、やはり汎用的知性とは言えません。例えば僕はいま、「言いたいことが言えたかな。ちょっと違うかな」と、しゃべりながら思っています。つまり人間には、言葉でうまく言い表せないという経験がある。とりわけ大事なことって、たいていそうなんです。でも、言葉にならないという体験自体が、言葉がなければできないんですね。人間は言葉をもつからこそ、言葉にならないものがある。こういうことは、ChatGPTの世界ではまったく考慮されないんですよね。質問に対してもっともなことを言ってくるわけだけど、実はいちばん重要なことだけは言われていないような感じがします。

一方、後者については、仕事の量が減るというより、「いい仕事を俺はやってるんだよね」と人間の自尊心にかかわるような仕事が奪われていくことのほうが重大です。例えば事務仕事でレポートをつくるような場合、客観的に見ると、本当は大したことをやってないんですよ。だけど本人としては、時間をかけてネットや本でいろいろ資料を調べているから、創造性を発揮していると思っている。そういう仕事がAIに取って代わられていくと、仕事に対する人間のプライドは失われていくんじゃないでしょうか。
井上智洋◎駒澤大学経済学部准教授。慶應義塾大学環境情報学部卒業、早稲田大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。2017年より現職。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論。AIと経済を考察した著作も多い。

井上智洋◎駒澤大学経済学部准教授。慶應義塾大学環境情報学部卒業、早稲田大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。2017年より現職。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論。AIと経済を考察した著作も多い。

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文=斉藤哲也 写真=平岩 亨 イラストレーション=アンドリュー・ジョイス 編集=成相通子

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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