審査委員のひとりである日本大学文理学部教授・末冨芳は、主体性の前提となる「権利思想」が重要だと指摘する。「まず子どもたちが、自分自身が権利を持つ大切な存在であり、相手もまたそうであるということを認識すること。権利思想は民主主義における必要不可欠なアイデア。学校がその考えなしに主体性を育てようとしても、上っ面の取り組みにしかならない」(末冨)と釘を刺す。
23年4月1日に「こども基本法」が施行され、校則見直しとともに、児童虐待やいじめなどの問題が起こった際には、「子どもの権利」を尊重して対応が行われるように変化していくだろう。
教育も「ウェルビーイングが前提」に
文部科学省、中央教育審議会が取りまとめた、23年度から始まる次期教育振興基本計画では、「日本社会に根ざしたウェルビーイングの向上」がコンセプトとして掲げられている。前述のOECDラーニング・コンパスでも、ウェルビーイングへの言及があり、世界的な流れとも重なる動きだ。こうした背景について、審査委員でEdTechスタートアップ、Inspire High・CEOの杉浦太一は教育の目的の変遷から分析する。「産業革命以降、経済界、企業の成長に寄与できる人材を育てるための教育がなされてきた。ここにきてはじめて、『人がよく生きる』のための教育とは何か、と考えられるようになった。探究学習をはじめ、我々のようなスタートアップの知見が教育に貢献できることも多くなるだろう。これまでの『学び』をアンラーンする大きな変化が起きている」(杉浦)
22年11月、こうした「教育の変化」を、より大きく推進する技術に教育業界が震撼した。「対話型人工知能(AI)のChatGPT」の登場だ。審査委員を務める熊本市教育長の遠藤洋路もそのひとり。
「AIが、思考力、判断力、表現力まで、人間を上回るのは時間の問題だろう。そうしたら、人間の役割はAIに与える課題を設定するだけになる。人間は仕事をしなくなり、人生を楽しむことが存在意義になるかもしれない。であれば、『現在のような学校は必要なくなるのではないか』という、そもそもの前提を覆すような問いも生まれてくる」と話す。
子どもたちが全員学校に通い、義務教育を受ける。長年、続いてきたこの教育環境を揺るがす「大転換期」がいずれやってくるのかもしれない。こうした変化のさなか、我々に求められているのは、学校や先生、子どもたちだけでなく、私たち全員で「教育に関する学びほぐし・学び直し」に取り組み、変革に挑む姿勢なのかもしれない。