映画

2023.07.15

父と息子が仕事を通じて「出会う」旅│映画「シェフ 三つ星フードトラック始めました」

映画「シェフ 三つ星フードトラック始めました」より イラスト=大野左紀子

労働と生活の場が切り離されて久しい今、親が家の外で働く姿を知らない子どもは多い。

子どものうちから家業を手伝いながら、社会の中の親の姿を垣間見る……といったこともほとんどなくなった。子どもが親を労働者として捉え直すのは、自分が外で働くことを覚えてからだろうか。

今回紹介するのは、父親がひょんなきっかけから子どもと共に働くことになる『シェフ 三つ星フードトラック始めました』(ジョン・ファブロー監督、2014)。ジョン・ファブローが監督、脚本、主演を務めたコメディドラマである。

ロスを目指す旅の始まり

ロスの三つ星フレンチ「ガロワーズ」のコック長を務めるカール・キャスパー(ジョン・ファブロー)は、離婚して友人関係となった妻イネズ(ソフィア・ベルガラ)との間に10歳の息子パーシー(エムジェイ・アンソニー)がいる。

(左から)ジョン・ファブロー、エムジェイ・アンソニー、ソフィア・ベルガラ / Getty Images
 
有名な料理評論家ラムジーが来店する重要な日、新しい料理に挑戦したいカールは、いつものメニューを推すオーナーとの間で揉めた結果折れ、つくり慣れたフレンチを提供する。

しかし、ラムジーにブログで味噌糞に貶されたことを知り、息子パーシーに教わったばかりのTwitterで口汚く反撃。そのツイートが拡散される。

カールは、次こそは新メニューでラムジーにガチンコ勝負を挑みたいと考えるのだが、それに真っ向から反対するオーナーと決裂。ラムジーの再来店時に、彼や客の前でキレちらかしたカールは結局、仕事を失ってしまう。

心配した元妻イネズに、息子パーシーとの夏休みの旅を提案され、カールは自身の出発点ともなったイネズの故郷マイアミへ。そこで食べたキューバサンドイッチのおいしさに感動した彼は、これをつくって販売しようとボロボロのフードトラックを入手する。

そんな彼を追いかけてきたガロワーズ時代の助手で親友のマーティン(ジョン・レグィザモ)も加わり、3人でキューバサンドイッチをつくっては売りながら、再びロスを目指す旅が始まる。

食と音楽は人生における基本的な快楽

前半はロスからマイアミへ、後半はマイアミからサウスパーク、ニューオリンズ、テキサス、オースティン、再びロスへと展開されるドラマは「行きて帰りし物語」の構造を踏襲している。そこに浮かび上がるのは、雇われ仕事で夢を果たせなかった男のリベンジと、父と息子の労働を通した新しい出会いだ。

まずこの作品は、食と音楽に彩られている。冒頭から軽快な音楽に乗って展開される、スピード感溢れる調理の場面が目を奪う。大蒜を素手でグシャッと叩き潰すシーンの豪快さには、カールの重厚感のある体躯とコックとしての自信が満ち溢れている。

カールがプライベートでササッとつくる料理が、またおいしそうだ。元恋人でワインソムリエのモリー(スカーレット・ヨハンソン)に出されるバジルパスタ、家でパーシーに食べさせるホットサンドなど、見ていると確実にお腹が空いてくる。

調理シーンの多くにはラテンミュージックが挿入されているが、フードトラックの旅においては、それぞれの地域に合わせた選曲になっているのが楽しい。また、マイアミの歌手であるイネズの父のライブで家族が踊るシーンは、多幸感に満ち溢れている。

全編を通じて伝わってくるのは、「食と音楽は人生における基本的な快楽である」というメッセージだ。これは民族や地域を越えて広く共有される価値観だろう。
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文=大野左紀子

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