映画

2023.07.15 18:00

父と息子が仕事を通じて「出会う」旅│映画「シェフ 三つ星フードトラック始めました」

息子を弟子と認めた瞬間

それが変わってくるのは、マイアミでフードトラックを手に入れてからだ。恐ろしいほど汚れているそれをパーシーと2人で掃除し始めるが、それまでレストランの厨房を取り仕切っていたカールは、息子に対しても手加減しない。

命令ばかりの父親にとうとう「こき使うな!」と怒って背を向けたパーシーに謝るシーンで、カールはようやく息子と同じ目線になって向き合う。

ボロボロのフードトラックを背後に、見つめ合う2人を逆光で捉えたカット。カールがパーシーという男の子の明るい“表面”だけではなく、その中に育ってきているおそらく自分とよく似た強い自我に気づく瞬間だ。

それは、そのすぐ後の買い物でさまざまな調理道具を購入した最後に、一丁のシェフナイフをパーシーに買い与える場面で、より一層明確になる。職人が新米に道具を授けるのは、相手を弟子と認めた証拠だ。料理という父の仕事の中に息子が飛び込むかたちで、2人は改めて出会い直す。

マイアミから出発し、サウスパーク、ニューオリンズ、テキサス、オースティン、再びロスへと”行軍”するフードトラックの旅は、前半のロスの場面の息苦しさとは対照的だ。

この明るく開放的な雰囲気に大きく貢献しているのは中米のルーツをもつマーティンで、カールからすれば気心の知れた頼れる相棒、パーシーからすると友達みたいな叔父さん的役割を果たしている。キッチンの立派な戦力となっているパーシーが、変に子ども扱いされていないところも良い。

南から北へのカールのリベンジの旅は、父と息子の労働を通した新しい関係構築の旅でもあったのだ。

連載:シネマの男〜父なき時代のファーザーシップ
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文=大野左紀子

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