働き方

2023.07.14 20:00

生産性の罠から放たれ 「主語を自分」に変えたら起きたこと

すると何が起こったか。「目の前のことに集中できるって、こんなに気持ちがいいんですね!」そんな反応が返ってきた。人が全身の五感を総動員して、今この瞬間に集中する状態は、僕たちに「幸せ感」をもたらしてくれる、いわゆる「ウェルビーイング」な状態へと導くのだ。

プロジェクトでは、スマホとの適切な距離感をテーマに扱った。僕が気づいたのは、僕らは無意識に、無批判に大量の情報に反応して生活しているという事実だった。自分の時間をどういう気持ちで、どう感じたいか、という意思を持ったことはそれまでなかった。だが、今・ここに流れている「時間をどう感じたいか」という意思を持つことから、変化は始まるのではないか。大事なのは、時間を「効率的に」使うかではない。自分が過ごしている時間を、「自分を主語に」今を感じて豊かに過ごせるか。「他人に支配された時間で生きる世界」から、「自分の時間を生きる世界」への転換ではないか。

他人時間から「じぶん時間」へ |「生産性の罠」から脱出する

当時、「生産性の罠」にはまっていた僕は必死にその脱出方法を探していた。そこで気づき始めていたのが、「じぶん時間を生きる」というテーマだった。

これも本書でじっくりと紹介していくが、コロナ禍を経て、多くの人がオフィスから離れ、直接人と会う頻度を減らした期間は、「じぶん時間」を取り戻すという内的変化(=トランジション)が起こっていた時期なのではないかと思う。山本七平氏の名著『空気の研究』でもいわれるように、日本人は空気を読んで、自分の行動を考えることが得意だ。

しかしリモートワークではどうしても周囲が見えにくくなり、空気の読みようもない環境になった。これは日本人が縛られていた他人に合わせて動くという無意識の規範に疑問を生む。それによって自分を起点に、自分が過ごしたい暮らし方を考える人が増え始めたのではないか。

この期間に、仕事を変えたり、住む場所を変えたりした人も多い。

これまで何の疑問も抱かず取り組んでいた仕事が手につかなくなったことも、自分が本当に住みたい場所を探し始めたことも、子どもの未来や家族のライフスタイルについて真剣に悩むのも、「他人と比較して生きる人生」から、「自分の尺度で生きる人生」へのトランジションが起きている証拠だ。

Liyao Xie / Getty Images

Liyao Xie / Getty Images


このように社会全体が他人軸から自分軸に移行した時代を迎え、当たり前だった資本主義ゲームの尺度から、積極的に脱却しようとしている人たちがいる。

その中でも純度の高いトランジションが起こった人たちが、東京での暮らしを見直し、地方に移住し、新たな生活を始めるという動きをしたのではないかと思う。
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文=佐宗邦威

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