abrAsus(アブラサス)とは、ラテン語の「削ぎ落とす」と日本語の「油さす」を兼ねたネーミング。その名の通り、このホテルのオーナーであり、デザイナーの南和繁は、元々「薄い財布」でグッドデザイン賞を受賞するなど、従来よりミニマリストなライフスタイルを提案し続けている。
そんな南が、この別荘ホテルを通じ、世に打ち出す新しい時代の「価値」とは─。
デザイナー南が大事にしてきた矜持がある。「既存のプロダクトデザインの常識にとらわれず、ゼロから価値を創造、『欲しい物を形にする』」ということだ。そういう意味で、今回の新しいホテルのあり様は従前のそれとは一線を画す。
現在、マレーシアに住む南は、これまで世界の55カ国を回ってきた。行く先々で豪華と言われるホテルや、その国や地域が誇るデザイン性、機能性の高さを訴求する宿泊施設に滞在してきた。しかし、その中で南が感じたのは、それらの優位性は思い出の中に溶け込んでしまうということ。
実際、振り返ったときに、ラグジュアリーなホテルの様相や景色は写真を見るまで思い出せない。一方、いつまでもビビッドに思い出されるのは、キャンプやグランピングで子供たちと薪を割ったり、玉ねぎをむいたりしたこと、また、その時に話した他愛もない内容など、共同作業した時間そのものだった。これこそが、今回、新たなホテルを作ったきっかけにも繋がった。