北米

2023.06.21 07:00

不明のタイタニック観光潜水艇、捜索・救助は困難と専門家

消息を絶った潜水艇の捜索活動について説明する米沿岸警備隊の担当者(2023年6月20日撮影、Scott Eisen/Getty Images)

消息を絶った潜水艇の捜索活動について説明する米沿岸警備隊の担当者(2023年6月20日撮影、Scott Eisen/Getty Images)

大西洋で沈没した英豪華客船「タイタニック号」の残骸見学ツアーに向かっていた観光用潜水艇が消息を絶った事故では、20日現在も米沿岸警備隊などによる捜索活動が続いている。緊急用に積み込まれている酸素は96時間分とされ、5人が乗っている潜水艇の捜索は時間との闘いになっている。ただ、専門家からは捜索も救助も難航するとの見方が出ている。

米沿岸警備隊によると、潜水艇「タイタン」は18日、カナダ東部ニューファンドランド沖約650キロメートルの海底に眠るタイタニック号の残骸に向けて潜水してから約1時間45分後、母船と連絡が取れなくなった。

英キール大学のジェイミー・プリングル准教授(法地球科学)は、海洋では海水の層がいくつかに分かれているほか、海流もあり、さらに海底の起伏は地上よりはるかに激しいため、捜索する環境としては「非常に厄介」だと説明する。

オーストラリアのアデレード大学のエリック・フジル准教授によると、海中では通信も地上と比べ格段に難しくなる。タイタンは母船とワイヤーでつながれていないので通信は海を介することになるが、電磁波の伝播が水によって急速に遮断されるため、レーダーやGPS、スポットライト、あるいはレーザー光線もせいぜい「数メートル」先までしか届かないという。

そこで、音波を用いて水中での位置の特定や通信を行うソナーが捜索手段のひとつになる。だが、プリングルによると、これほど深い海で小さな潜水艇の位置を特定するには「非常に幅の狭いビーム」を使う特殊な技術が必要で、こうした手法での位置を特定しようとする場合、捜索や救助に残された時間よりもはるかに長くかかってしまう可能性があるという。

救助はさらに困難に

タイタンの発見も難しいが、救助はさらに困難な作業になるかもしれない。英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのアリステア・グレイグ教授(海洋工学)は「タイタンが海底まで沈んでいて、自力で浮上できない場合、選択肢は非常に限られる」と話す。

タイタンはその目的からして、大陸棚を越えて非常に深い海域に到達している可能性がある。たとえ無傷であったとしても「そこまで深く潜れる船はほとんどない」(グレイグ)。タイバーが潜れないのは言うまでもない。

グレイグは海軍の潜水艦救難艇であっても「タイタニック号の近くの深さまで潜ることはまず不可能」との見方を示す。仮にできたとしても「観光用潜水艇のハッチに取り付けられるかは非常に疑問」だという。

アデレード大のフジルは「残された時間は少ない」と語る。潜水艦の乗組員や潜水艇の深海ダイバーなら「こうした環境がどれほど過酷か知っている」はずだとし、「工学的な観点からは、海中に行くのは宇宙に行くのと同じくらい難しいこと」だと指摘する。

タイタンは、ワシントン州エバレットのツアー会社OceanGate Expeditions(オーシャンゲート・エクスペディションズ)によって運営されている。乗っているとみられる5人には、英国の実業家ハミッシュ・ハーディングも含まれる。

艇内は窮屈で、座席もないとされる。簡素な設計になっているとみられ、操作は家庭用ゲーム機のコントローラーのようなもので行うという。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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