女性で平均28日周期とされる月経周期は、動物では発情周期または性周期と呼ばれる。明治大学 農学部 生命科学科の中村孝博 専任教授らの研究グループは6月19日、実験動物のマウスが日の長さ(以下、日長)を変化させることにより、性周期が安定し、短縮することを発見したと発表した。
雌のマウスは通常4日(または5日間)の性周期を持ち、性周期が正常であることは、生殖機能が正常であることを意味する。同じげっ歯類でもハムスターや馬などの長日性季節繁殖動物は、日が長くなると繁殖活動を開始させ、日が短くなると休止させる。一方、ヒトやマウスは季節繁殖動物ではなく、1年中繁殖が可能な周年繁殖動物に分類される。これまで周年繁殖動物については、日長の違いが繁殖活動や生殖機能に変化を与えることは、報告されていなかった。
そこで同研究グループは、日長を通常より2時間長くした長日環境で、マウスの性周期が何日間で回帰するかを調べた。まず、サーカディアンリズム(体内時計※)の主要な時計遺伝子であるPer1, 2, 3が壊れており、繁殖効率が悪い遺伝子欠損マウス(Per1/2/3 KOマウス)を用いた実験を実施。
通常マウスは飼育室内で、照明条件を12時間明期:12時間暗期に設定して飼育するが、この条件下では雌のPer1/2/3 KOマウスの性周期は不規則で、5%のマウスしか正常だとされる4日間(または5日間)の性周期を示さなかった。しかし、14時間明期:10時間暗期という1日のうち2時間明るい時間を長くする長日環境条件で飼育すると、38%のマウスが正常の性周期を示すようになった。
次に、遺伝子が欠損していない野生型マウスを用いて同様の実験を実施。12時間明期:12時間暗期の照明条件では47%のマウスが正常の性周期を示し、残りは正常もしくはそれ以外の周期(日数)が混在する不規則な性周期を示した。しかしそれらのマウスを長日環境下で飼育すると、正常の性周期を示すマウスが68%まで増加。すなわち2時間の明期の延長が、性周期の日数を短縮させることが分かった。
性周期が短縮するということは、排卵の頻度が上がり、交配確率が上がることを意味する。これは、周年繁殖動物のマウスについても、長日環境下で飼育することにより、繁殖効率が上がることを示す。
研究グループは今回の研究結果から、女性においても光環境周期を調整し、サーカディアンリズムの適応をはかることによって月経周期が安定し、より妊娠しやすい体になる可能性が考えられると説明した。さらに、今回の結果が女性特有の疾患の発症機構の解明やその治療、対策方法の考案に寄与するものと考えられると、研究成果が社会に与える影響を述べた。
※サーカディアンリズム(概日リズム):地球上のあらゆる生物は約1日(概日)周期の体内時計機能を有し、「昼間は活動し、夜間は休む」などの基本的スケジュールに備えて生理機能が変動する。通常、サーカディアンリズムは24時間周期で調節され、時刻情報がない(実験的)環境下ではおよそ1日周期で変動する。
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