欧州

2023.06.15

障害胎児の中絶は「差別」 ダウン症の英女性、欧州人権裁に提訴へ

障害のある胎児の人工妊娠中絶に関する法律の改正を求めているダウン症の英国人女性ハイディ・クラウター(Don’t Screen Us Out)

障害のある胎児の人工妊娠中絶に関する法律の改正を求めているダウン症の英国人女性ハイディ・クラウター(27)は、国内の裁判所で敗訴したことを受け、今度は欧州人権裁判所に提訴する意向だ。

イングランド、スコットランド、ウェールズでは、胎児にダウン症などの特定の障害がある場合、出産までのどのタイミングであっても中絶が合法とされている。これに対し、一般的な中絶の上限は妊娠24週だ。クラウターは現行法が障害者を差別し、障害に対する否定的な態度を助長していると主張し、法改正を求めている。

英BBCによると、クラウターの訴えは高等法院と控訴院により退けられた。最高裁判所も、この訴えを審理しないとしている。だが、クラウターは自身が率いる運動団体「Don’t Screen Us Out(私たちを選別しないで)」と共に「障害児を選別する」法律と闘い続けると宣言し、欧州人権裁判所への提訴の許可を求めている。もし同裁判所が英国の法律を差別的だと認めた場合、欧州46カ国に「法的な先例を示す」ことができるとクラウターの団体は述べている。

「誕生すれば平等に扱われるが、子宮の中ではそうではない」

クラウターの団体によると、障害を理由とする中絶は、2020年の年間3083件から2021年には3370件へと9%増加した。このうち、妊娠24週目以降に行われたものは274件で、前年から20%増加した。2021年に英国で堕胎されたダウン症の胎児は850人以上だった。

クラウターは次のように述べている。「2023年、私たちは誕生すれば障害者が平等に扱われる社会で生きているが、子宮の中ではそうではない。私たちの法律は、障害のある子どもを選別している。それは(中略)私のようなダウン症の人たちに、私たちは他の人たちよりも価値が低いというメッセージを送っている。これは真実ではなく、正しいことでもない」。クラウターはこれまで「素晴らしい人生」を送ってきたとし、ダウン症の全ての子どもに「同じように生きるチャンスを与え、人生を楽しんでほしい」と願っていると訴えた。

クラウターの団体で広報を担当するリン・マレーは「中絶法の規定は、障害者は社会の一員にならない方が良いと考えていた時代を思い起こさせるものだ。私たちは今、多様性を称賛する、はるかに包括的で進歩的な社会に生きており、全ての法律がそれを反映すべきだ」と語った。

中絶法の改正を巡っては賛否両論あるが、一部の障害者団体は過去の改正の取り組みを支持してきた。「障害者の権利UK」は2017年、同様に法律を改正する法案を支持した。本法案は最終的に不成立となったが、当時の最高責任者リズ・セイスは同法案が「中絶の是非を問うものではなく」「根本的に平等を巡るもの」だったと説明した。「中絶が認められない週数を議会が定める場合、その週数は障害児が生まれる可能性がある場合でも、障害児でない場合でも、全く同じであるべきだ。全ての命は平等なのだから」

ダウン症はダウン症候群とも呼ばれ、発達障害や、軽度から重度の知的障害を引き起こす可能性のある遺伝性疾患だ。ダウン症は白血病や甲状腺疾患、1型糖尿病など、特定の健康状態になるリスクが高い。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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