抗うつ剤の大半に慢性痛の緩和効果なし 英研究結果

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米国では、成人5100万人以上が慢性的な痛みを抱えながら生活している。米疾病対策センター(CDC)によると、そのうち1710万人以上が日常生活に大きな支障をきたす慢性痛に悩まされているという。医師は慢性痛患者に抗うつ剤を処方するのが一般的だ。ところが最近の研究では、抗うつ剤が痛みを緩和するための最良の方法ではない可能性が示された。

英国で行われた研究では、25種類の抗うつ剤の有効性を調査した研究を検証・分析した。結果、慢性痛の緩和に有用と思われる抗うつ薬はデュロキセチン(商品名サインバルタ)だけで、他の薬剤はいずれも証拠の確実性が低かった。

研究グループは、2万8664人の慢性痛患者を対象とした176件の研究を分析。このうち、研究の資金源を明らかにしていたのは146件に限られ、うち72件が製薬会社から資金提供を受けていた。これらの研究では、抗うつ剤に線維筋痛症、神経痛、腰痛の緩和効果があるかどうかを調査した。

痛みの緩和のために処方される抗うつ剤で最も一般的なのは、アミトリプチリン(トリプタノール)やデュロキセチン、ミルナシプラン(トレドミン)だ。アミトリプチリンは、痛みの緩和のためにも処方される、世界でも最も人気のある抗うつ剤だ。英国だけで年間1000万回処方されている。

研究チームは、抗うつ剤の慢性痛に対する効能については「1つの抗うつ剤、デュロキセチンの効果にしか確実なことは言えない」と結論。慢性痛にデュロキセチンを処方する場合、「標準的な用量(60ミリグラム)が有効であり、それ以上の用量を使用する利点はないことが分かった」としている。その上で、抗うつ剤の副作用についてはデータが非常に乏しいため、これについては今後の研究で取り組んでいく必要があると指摘した。

研究では、痛みの緩和のためにデュロキセチンを服用していた1000人のうち、435人が痛みが50%緩和されたと回答したが、プラセボ(偽薬)を投与した対照群の患者も痛みが50%緩和されていた。研究結果をまとめた論文は10日、「システマティックレビューのコクランデータベース(CDSR)」に掲載された。

論文の筆頭著者である英サウサンプトン大学のタマール・ピンカス教授はプレスリリースで次のように述べている。「これは世界的な公衆衛生上の懸念だ。慢性痛は、抗うつ剤が効くという十分な科学的根拠もなく、健康への長期的な影響も理解されないまま処方されている多くの人々にとって問題だ」「検証の結果、どの抗うつ剤についても長期的な有効性の確実な証拠はなく、慢性痛に対する抗うつ剤の安全性についても、どの時点でも信頼できる証拠がないことが分かった。デュロキセチンは、われわれが調査した患者の痛みを短期的に緩和することが分かったが、現在の証拠には欠落があるため、長期的な有害性の可能性が懸念として残っている」

英医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)に1月に掲載された別の研究でも、抗うつ剤の多くには鎮痛効果がないか、その証拠が不十分だとされていた。ただ研究チームは、デュロキセチンについては、腰痛、線維筋痛症、神経障害痛などの症状に対して60~120ミリグラムの用量で処方した場合、有効性を示す複数の証拠があると指摘。「われわれの知見は、痛みに対して抗うつ薬を処方する際に、より繊細な方法で行うことが必要であることを示すものだ」と結論付けている。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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