米国主導の制裁でこれまで手つかずだった産業、すなわち燃料を含む民生用原子力発電分野を欧米が制裁対象として狙い始めるのは、時間の問題だ。欧米があらゆる制裁を科しているにもかかわらず、ロシアは濃縮ウラン生産で優位に立ち続けているからだ。ロシア国営原子力大手ロスアトムだけで世界の濃縮ウラン市場の38%を、ロシア全体では同市場の46%を占めている。欧米の制裁はロシアの石油・天然ガス業界に大きな打撃を与え、同国は欧州市場を失うことになったが、原子力は依然として制裁対象になっていない数少ない産業の1つだ。あなたが本稿を読んでいる間も、西側の多くの原子力発電所はロシア産の濃縮ウランで稼働しているのだ。
世界の核燃料供給でロシアが支配的な地位にある限り、同国は低炭素発電への移行に不可欠な原子力への回帰を目指す西側諸国に影響を及ぼし、そこから得られる収入はウクライナ侵攻への資金源となる。こうした課題を解決するため、米国、フランス、日本、カナダ、英国の5カ国は先月、核燃料のサプライチェーン(供給網)を共有する「核燃料同盟」を結成した。これは23年越しで設立されたものだが、遅きに失するよりはましだ。
核燃料同盟は世界の原子力市場に対するロシアの影響力を排除することで、核燃料の供給網を保護する役割を担う。こうした動きにより、英蘭ウレンコ、カナダのカメコ、仏フラマトム、米ウエスチングハウスといった企業が利益を得ることになる。本施策は原子力発電の推進により、気候変動の影響を緩和するためのネットゼロ目標を達成することも目指している。
核燃料であるウランの取引は、核兵器にも転用できることから、世界中で厳しく管理されている。したがって、どの国でもウラン市場は買い手独占、つまり購入者が国内に1社しかない状態であることが通例だ。核燃料同盟は国際的な買い手独占状態を構築することを目指している。こうすることで、濃縮ウラン市場を牛耳るロシアの影に隠れていた加盟国が、団体交渉力を得られるためだ。