政治

2023.05.31 10:15

西側の「核燃料同盟」、ロシアの支配に対抗

遠藤宗生
ロシアがウラン取引で利益を得る機会を直接妨げることも、G7首脳会議の重要なポイントだった。欧米による制裁が続く中、ロシアは合法的に収益を上げられる主要産業に投資を集中させている。その中の1つがウラン濃縮だ。ロスアトム単体で、年間10億ドル(約1400億円)以上をロシア経済にもたらしている。ウランの国際的な買い手独占市場があれば、ロシア以外の国でウランの代替供給源を開拓し、民生用のウラン濃縮能力を開発することができるだろう。

今こそ、こうした同盟が必要なのだ。原子力発電は二酸化炭素をほとんど排出しないことから、近い将来、エネルギー市場に占める割合が拡大すると予想される。現在、経済協力開発機構(OECD)加盟国の全エネルギー需要の約18%を原子力が賄っている。電力需要が全体のエネルギー使用量を2倍近く上回る中、私たちは各種エネルギーの中で原子力の割合を拡大していくべきだ。化石燃料からの脱却を促す政治的・環境的な圧力により、原子力への投資は既に過去5年間だけで350億ドル(約4兆9000億円)以上に達している。ロシアが攻撃的な姿勢を強める中、同国産のウランへの依存は容認できないことを西側の首脳はようやく理解した。

核燃料同盟は、差し迫った戦略的問題の多くに対処するものだが、それ以上の影響もあるかもしれない。消費者と生産者の間の国際的な地理経済学的バランスを根本から覆すこともできるだろう。これは、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国から成る「OPECプラス」のような石油カルテルを疲弊させるとともに、西側が中国産のレアアース(希土類)に依存しているような他の戦略分野での輸入依存度を軽減する道筋を示すものでもある。

需要側が同盟を結ぶことで、安定した市場を確保でき、ウランの供給先が多様化されるのであれば、核燃料同盟は期待以上の成功を収めることができるだろう。各国が約束した重要なインフラストラクチャー投資を守り、世界の環境に優しいエネルギーへの移行を進め、ロシアの戦争資金を可能な限り枯渇させるためには、ウラン濃縮で同国の影響力を排除することが必要となる。核燃料同盟の設立は、個人や民生用原子力発電所、政府機関、ひいては国際システム全体を、ウランを利用したロシアの侵略から守るための有望な一歩だ。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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