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2023.05.31

タイミー創業者の究極の決断。学生起業家から「普通の学生」に

起業のきっかけは「小川家の事業を復活させたい」という想いだった

「辞める」という重い決断

小川はここで、一度立ち止まった。

「いつのまにか自分の原体験から外れたサービスになっていました。資金調達をすると少なくとも3年から5年は事業を続けないといけない。人生は一度きりなのに、その時間を今の事業に費やして良いのかと悩みました」


結果、小川は事業継続を断念した。大学を卒業して一般企業に就職し、新たに起業の準備をしようと考えた。

「本来は自分たちのビジョンがあって、その事業を成り立たせるために調達がある。調達は手段であることを再認識すべきだと、考えるようになりました」

小川にとってこの「辞める」という決断は重く、「自分は起業に向いていないのではないか」とまで考えた。Recolleは5人の従業員を抱えていたため、優秀なメンバーの貴重な時間を奪ってしまったと、責任を感じていた。

ちなみに、当時相談をした10人の先輩起業家の意見は、資金調達を「行うべき」「断るべき」で半々。実績のある起業家でも意見が分かれる決断だったという。

「何者でもない今の自分を救いたい」

事業を畳んだ小川は、大学に通ってアルバイトをする学生に戻った。夏にはサマーインターンに通う就活生となった。

以前に比べて時間を持て余すような毎日で、自分の時間価値が一気に低下したと感じられ、しだいにそれがストレスになっていった。そのフラストレーションから、次の事業のアイデアを思いつく。

それは、自分の空いている時間を入力したら、その時間を誰かが欲してくれるアプリだ。「何者でもない今の自分を救いたい」という思いからだった。

予定では一度就職して経験を積んだのちに起業に再挑戦するはずだったが、このアイデアをもとに、2018年にはタイミーをローンチ。大学は中退せず、休学することを選択した。

「僕は100%のリスクを犯すことは嫌いなタイプ。他に選択肢がないと『この事業を絶対に成功させなければならない』と、目先の売上を追うことになってしまいます。でも、起業は本来、イノベーションを起こして社会課題を解決しようという思いが大きなエネルギーになるもの。その志を曲げなくても良いように、学生という選択肢を残すことにしました」

タイミーは、「たった数時間だけ」という超短時間アルバイトができるサービス。多くの人のニーズにはまり、2018年8月のサービスローンチからわずか1カ月半で100社が導入、利用者数も7000人を突破し、急成長することとなった。

>>続く

◤30U30 AIUMNI INTERVIEW◢
「タイミー小川嶺」
#1 タイミー創業者の小川嶺が、小学校の「転校」で学んだこと
#2 タイミー創業者の究極の決断。学生起業家から「普通の学生」に
#3 5年で累計273億円調達。タイミーの成功要因は?
 #4 「座学が足りてない」 成功した学生起業家を動かした言葉

文=尾田健太郎 取材・編集=田中友梨 撮影=山田大輔

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