もう1つは、市内中心部にある高層ビル「City Tower」屋上の展望バーだ。周囲には外資系ホテルやマンション群が建ち並び、車のライトが通りに沿って光の筋となり浮かび上がる。いかにも現代都市的な夕闇を眺めながら「これがいまのウランバートルなのか」という感慨に浸れる場所だ。
屋上はヘリコプターが発着できる、だだっ広くてフェンスもない殺風景なスペースだった。何かのお祝いなのだろうか。3人組の地元の若い女性たちがテーブルを1つだけ置いて、ビールグラスを手にして会食を楽しんでいた。おそらく彼女たちは自分たちだけの女子会のために、わざわざこの場所を予約したのだろう。
この街には、バラエティに富んだ最新のレストランがいくつもある。
現代モンゴル料理店「モダン・ノマズ」では、注文はスマホのQRコードで行い、この国の歴史と文化をスタイリッシュに描いた内装のデザインも新鮮だ。
中国の内モンゴルでは見たことのないメニューも多かった。この店の羊スープは、羊肉の香りがほのかに漂う透き通ったもので、中国や東京の「ガチ中華」の店で食べた白濁したスープとは別物のようだった。
もともと、モンゴル料理は塩以外の調味料をほとんど使わず、シンプルな味わいが一般的とされる。だが、この店ではサラダを食べたり、肉料理も中央アジア風のスパイスが使用されていたり、ロシアの食文化の影響を受けていた。トウガラシなどの調味料を多く使い、味が濃くて複雑な中国の羊料理とは違った。
ショッピングモールの中にある「モンゴリアンズ」というハイソなレストランでは、現地の人から「モンゴルの地元メシといえば、絶対これ」と勧められたモンゴル風焼うどんの「ツォイワン」を食べた。
数年前から、モンゴルでは沖縄の音楽グループ「CHAKA LAND」が歌う「ツォイワンどうですか?」という曲が流行っていた。彼らは沖縄の吉本興業の芸能学校「ラフ&ピース」の出身で、メンバーの1人にG.エンフエルデネさんというモンゴル人留学生がいたことで、この曲が生まれたのだそう。ノリが良くコミカルで耳に残る沖縄ポップスはモンゴル人にとっても新鮮で、この国では知らない人はいないという。
モンゴル風焼うどんとはいうものの、ツォイワンは薄い平打ち麺で、中国の麺処といわれる山西省や陝西省の西安などシルクロード沿いの地域の小麦麺に特有のモチモチした食感はなく、想像していた味とは違うものだった。