アート

2023.05.21

建築家と陶芸家の二刀流 奈良祐希の「土建築」が示す、人間の未来

陶芸家であり、建築家の奈良祐希

木造在来工法では前例のない約5メートルのキャンチレバーを実現させるため、構造設計を構造家の大野博史(オーノJAPAN)に依頼し、さまざまなアイデアを議論してきたという。

このキャンチレバーは問屋町へのオマージュが込められている。物流がさかんな問屋町では、物流倉庫やオフィスに合わせて大型トラックの積み下ろしがしやすいように同様の鉄骨構造の建物が多く存在する。そこに奈良が目をつけ、この土建築にも取り入れた。
キャンチレバー構造の2階部分 このブレースが支えている (c)EARTHEN

キャンチレバー構造の2階部分 このブレースが支えている(C)EARTHEN

「Node」2F平面図F平面図 (c)EARTHEN

「Node」2F平面図F平面図(C)EARTHEN


最後に、オフィス機能を集約した2階部分を紹介したい。家元社員専用の「プライベートオフィス」側と地域とシェアする「パブリックオフィス」側が、3つの渡り廊下で結ばれている。1階の「緑のミチ」からシャラノキの木々が真っ直ぐ伸び、社員や地域の人々の緩やかな出会いの場を演出する。
写真右側がパブリックオフィス、左側がプライベートオフィス。ガラス張りで外の木々が緑のカーテン代わりだ

写真右側がパブリックオフィス、左側がプライベートオフィス。ガラス張りで外の木々が緑のカーテン代わりだ

地域とシェアするパブリックスペース

地域とシェアするパブリックスペース


地域のセミナーや催事などにも対応できる「パブリックオフィス」では、問屋町商店街の困り事であった「自然を感じながら、交流ができる場」を実現させた。ガラス張りで開放的な雰囲気だ。

その隣には、雰囲気がガラッと変わる会議室がひとつある。VIPルームのような家元社員向けの黒を基調とした部屋だ。これも「闇」を表しているのだろうか。「社屋には、そういう部分があっても良いと思うんです」と、奈良は笑う。尖った遊び心のひとつだろう。
VIPルームさながらの会議スペース

VIPルームさながらの会議スペース

「意識」と「無意識」が生み出すもの

2階から見えるギャラリーの奈良の作品

2階から見えるギャラリーの奈良の作品


最後に奈良にこう尋ねた。陶芸と建築を同期しようとすることで見えてきたことは何か。
まだ答えは見つかっていないが、「意識と無意識の間のコントロールは人間にしかできないこと」だと、改めて感じたという。現代ではジェネレーティブAIの台頭について盛んに議論されているが、奈良は冷静な眼差しで未来を見つめている。

「無意識にペンを走らせたり、手を動かしたり、人間が隠しきれない衝動があると思いますが、それはすべて無意識の産物と言えるでしょう。陶芸と建築を生業にしている僕だからこそ、意識と無意識を組み合わせた建築手法を極めていくことが、人間の未来のひとつの『解』に繋がるように感じています」

奈良祐希◎1989年石川県金沢市生まれ。2013年東京藝術大学美術学部建築科卒業、2016年多治見市陶磁器意匠研究所修了。2017年東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻首席卒業。北川原温建築都市研究所勤務を経て、2021年より建築デザイン事務所 EARTHEN主宰。陶芸分野では、Art Basel / Design Miami(スイス)、TEFAF(オランダ)、SOFA(アメリカ)などに招待出品。建築と陶芸の融合を目指した代表作<Bone Flower>は金沢21世紀美術館に史上最年少で永久収蔵されている。建築分野では、主な作品に「五行茶室」(2018/金沢21世紀美術館、台南市美術館)、「Node」(2023/企業新社屋、金沢市)、Cave(2023/リノベーション、富山市)。2023年7月に新作個展を「禅坊 靖寧」(淡路島)で開催予定。

文=督あかり 写真=​​広村浩一(Moog LLC.)

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