ここでまず注目していただきたいのが、図面右上にある三角形の鋭角部分。木造建築では、壁を鋭角にするのは嫌われるというが、土壁の温かみを感じさせながらも下のように尖った印象がある。その様相に思わず「奈良さんご自身みたいな建築ですね」と口走っていた。
「陶芸から工芸を見つめる」気づき
奈良は、東京藝術大学大学院の美術研究科建築専攻を首席卒業し、これまで陶芸家として異色の建築的なアプローチに取り組んできた。いずれ金沢美術工芸大学と共同で運営予定の「Node」のギャラリーでは、いまは奈良の代表作「Bone Flower」を見ることができる。前回の取材で、奈良は作陶において「内と外の境界をほぐす」ことを重視し「作品自体が、人や環境、自然と積極的に対話するような感覚で形を作っている」と語っていた。柔らかくもありつつ、思いがけないエッジーな形を手で生み出す様は、「空間を構成する工芸」(長谷川祐子、金沢21世紀美術館館長)と形容され、今回の建築処女作にもよく表れている。
奈良自身も「作陶では穏やかな印象がありながら、尖って見せたい部分の対比を感覚的に大事にしています。建築でも、それに通じる考えはあるかもしれません」と語る。
これまで「建築から陶芸を見つめてきた」という奈良が今回は「陶芸から建築を見つめて」いる。採土から成形、焼成までの陶芸の制作プロセスを、建築設計にも当てはめ、建築を進めてきたのだ。
問屋町でのリサーチで得た情報から、まずは「土スタディ」を行った。本来なら建築家は図面に向かって線を引き、立体的な構造物を平面的な図面に落とし込んでいくが、奈良はあえてそれを「土」で行い、試行錯誤しながら形作っていった。クライアントとの打ち合わせでは、土の建築模型を見せて「もっとこうしたい」という部分を指で押してもらい、変えていくなど設計段階では「柔らかさ」を重視した。
建築家であり、陶芸家である奈良は、両者の制作方法の違いをこう説明する。
「建築家は感情をコントロールし、意識的に線を引いていきますが、陶芸家は手が動いている時は無意識で、感覚的に形作っていくため、立ち上がり方が全く違いますね」
問屋町へのオマージュを意匠に
その建築手法の柔軟さは、土建築の「形」に表れている。再び角度を変えて見てみよう。北西方向から見ると、建物2階部分がぐっと前にせり出し、下には柱がひとつもなく、巨大なヴォイド空間がある。この片持ち式の「キャンチレバー構造」にも、奈良の強いこだわりがある。ここから見ると、屋根は平坦であり、最初に見えた三角屋根は見えなくなるから不思議だ。