アート

2023.05.21 11:00

建築家と陶芸家の二刀流 奈良祐希の「土建築」が示す、人間の未来

陶芸家であり、建築家の奈良祐希

下の写真のように「緑のミチ」と「街のミチ」が交差するのが、オフィス名「Node(結節点)」の由縁だ。街から引き込むように設置された通り道が交差し、人々が出会う場となるようにと、思いが込められている。
「緑のミチ」と「街のミチ」が交差する場所

「緑のミチ」と「街のミチ」が交差する場所

狭小空間の裏コンセプトを「陰陽」で捉える

建物自体は多機能でありながら、私はまずそのコンパクトさに驚いた。延床面積は500平方メートル以下だという。このうち、家元の専用オフィスの面積は20%にも満たないという。つまり、8割は地域とシェアするという考え方だ。
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奈良は設計時に「内側に開く」ことを意識したという。地域と繋がりを持つため、すべてガラス張りで外から見えやすいオフィスにもできたが、外壁は土で覆われていて、一見すると何の建物かは分かりづらい。

「この建物は、人間のようなものなんです。人は衣服を着て肌が守られていて、体の内部には内蔵があります。建物は土で覆われていますが、緑道から内側に入ると、ガラス張りで建物の『内蔵』を知ることができるようにしています」と明かす。「ガラスの透過性を利用して、全てオープンにすることで建築と街はつながるという考えは錯覚で、視覚によるまやかしだと感じています」と、安易な考えを一刀両断する。
緑のミチは、日陰にあり、自然の影を映し出す

緑のミチは、日陰にあり、自然の影を映し出す


さらに奈良はこう語り始めた。

「言葉が適切か分かりませんが、この建物は『闇』をもうひとつのテーマにしているんです」
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設計前のリサーチで、問屋町の組合「協同組合 金沢問屋センター」にヒアリングした際に「この町には自然を感じられる場所が少なく、日陰となる場所が少ない」という困り事を聞いていた。そこから「緑のミチ」のコンセプトが出来上がっていった。

プラントハンターの西畠には「狭小な空間に自生でき、日陰に強い植物を、さらに軽やかに見えるように考えていただきました。苔も日当たりに強いスナゴケと日陰に強いハイゴケのハイブリッドで植栽してもらっています」と語った。

奈良の考えを陰陽の思想に当てはめると、こうだろう。

陰陽学説では、人間のお腹を「陰」として、太陽が当たる背中は「陽」とする。そのバランスをうまく保つことで健康を維持するという考え方がある。

この土建築で言えば、日が当たる土壁を見ると、木造建築をベースに左官職人の工芸的な手仕事や、社員の手で塗られた部分もあり、人や自然の温もりを感じられる。一方で、建物の内側はガラスと植物により、自然な日陰となり「陰」を表す。その内外のバランスこそが、この土建築の凄みと言える。
「街のミチ」の入口 土壁の有り様から、金沢の武家屋敷に多く残る土塀も想起させられた

「街のミチ」の入口 土壁の有り様から、金沢の武家屋敷に多く残る土塀も想起させられた

次ページ > 陶芸を建築に取り入れ、出来上がった「形」

文=督あかり 写真=​​広村浩一(Moog LLC.)

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