キャリア

2023.05.16 17:00

「ONI」でアニー賞受賞監督が語る。よそ者への恐れと分断、そして「包摂」

堤 大介 監督/「トンコハウス」代表

このように作品づくりの動機はパーソナルである。一方、作品づくりには多くの人がかかわる。『ONI』の製作メンバーは総勢約200人。堤の個人的な「なぜ」を、チームでどう共有したのだろうか。
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「コロナ前、最初に集まってくれた人とは、僕の実体験も含めて『なぜ』の話をしたんです。すると、だいたいみんなどこかでよそ者になった経験をしていた。

コロナ後は『僕のなぜはこれです』というビデオをつくって全員に見てもらいました。僕らにとって、『なぜ』は北極星。そこを見失わないことがマストでした」

「なぜ」の共有はできた。問題はその解決方法だ。詳しくは作品を観ていただきたいが、堤は闇を悪しきものとして排除するのではなく、闇をも包摂して乗り越えようとする親子の姿を描いた。この結末は、必ずしも万人が納得するものではない。なぜわかりやすい勧善懲悪にしなかったのか。
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「否定では何も解決しません。アメリカの分断は、自分の意見だけを言って相手の声は聞こうとしない姿勢から起きています。これがエスカレートすると、自分と違うやつらはいなくなればいいという発想になってしまう。人類が過去に犯してきた過ちを、また繰り返そうとしている」

『ONI』はそのことを気づかせるためにつくった作品なのか。そう問うと、堤は強く否定する。

「プロパガンダをつくるつもりはありません。つくり手としては、キャラクターを友達のように感じてくれることがいちばんうれしい。人は説教には耳を傾けないものですが、自分にとって身近な人が何かを感じたとき、共感するものです。それと同じで、観た人が自分の暮らしの中で、『これ、おなり(主人公の女の子)だったらどう考えるかな』と考えるきっかけになればいい」

身近に感じられるバーチャルな友達を増やすという点で、アニメーションは絶好の表現手段だろう。「何で伝えるにしても、面白いものをつくることが最低条件です。興味をもってもらえなければ、作品の中に存在する哲学や世界観も伝わらないので」。

『ONI』を配信後、堤のインスタアカウントにウクライナの親子からメッセージが届いた。アカウントをたどると、少女がおなりをまねて「どんつこつこつこ、わっしょいわっしょい!」と踊る動画がアップされていた。親子は戦地から離れた地域に住むものの、電気や水道はたびたび止まるという。

「泣いちゃいますよね。『ONI』という作品がどうこうというより、つながったことが何よりうれしくて」

分断の最前線にいる少女が『ONI』を見て何を感じたのかはわからない。ただ、作品から温かい何かを受け取ったことは間違いない。


堤 大介◎18歳で渡米し、ルーカス・ラーニングなどを経て、2007年ピクサーに参画。アートディレクターとして『トイ・ストーリー3』『モンスターズ・ユニバーシティ』などを手がける。14年「トンコハウス」を設立。初監督作品『ダム・キーパー』は15年アカデミー賞短編アニメーション賞にノミネートされ、最新作『ONI ‾ 神々山のおなり』もアニー賞で2部門を受賞した。

『Forbes JAPAN』2023年6月号の特集「NEXT100 100通りの『世界を救う希望』」では、「新しく、多彩な、アントレプレナー・リーダーたち」にフォーカスしている。さまざまな領域で生まれている、これからの新・起業家、新リーダーたち100人を一挙掲載している。地球規模の課題や地域課題に対して、「自分たちのあり方」で挑む、彼ら、彼女らを「NEXT100」と定義。その新しい起業家精神とスタイル、アプローチで社会的・経済的インパクトを起こす人々の希望と可能性を紹介する。本記事は、同特集内で掲載している記事だ。

文=村上 敬 写真=ヤン・ブース

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